君がいるから



「あのお方からしてみれば、赤子のような貴様を相手にすると思うのか? 一戦交える前に貴様はこの世とはおさらばだ」

「なら試してみよ~っと。もしかして、もしかしちゃう可能性は無きにしもあらず。僕の方が勝っちゃったら、どうしよう」

「勝手にしろ、後悔するのは貴様だからな。だが、そんなことを思うこともなく終わってるだろうが」

 互いの鋭く強い視線が相手を威嚇し続ける。どこからともなく、双方の間を冷風が通り抜けていく――。

「そこまでだ」

 張りつめていた空間に、静かに割り入ってきた声音。

「その手をお互いに外せ」

 双方は共に相手から視線を外すこと無く、剣の柄に伸びていた手を静かに外す。

「何故、邪魔をする。エグザ」

「あんたはいっつもそうやって、邪魔するよね。この間の赤い髪との時もそうだしさ」

 ハウィーは残念そうに、ため息を混ぜながら言う。

「ハウィー、ラスナア。あの方がお待ちだという事を忘れてはいまいな」

「はいはい、もう分かったっつーの。行けばいいんだろ? 行けば」

 ハウィーは肩に掌を乗せて首をぐるりと回し、エグザの傍らを通り過ぎていく。

「また今度――楽しみにしているよ? ラスナア」

 背を向けたまま、掌をヒラヒラさせハウィーは去っていく。エグザはハウィーの姿が見えなくなった後、ラスナアは振り向き、背後にいる人物へと目を向ける。

「エグザ、何故止めた。あの野郎は我々の計画にいずれ邪魔になる存在だ。お前も分かっている筈だ。なのに、何故あのお方もあいつを野放しにしているのか、理解に欠ける」

 エグザから離れた薄暗い場所にいるラスナアは、靴音を鳴らし歩み寄ってくる。ほつほつと灯された蝋燭の灯火で、次第にラスナアの姿が露わに。緑と白――両の瞳で、エグザは目の前に現れた人物を目を細め映す。前後ともに襟足を隠すように伸びた黒髪、大きな漆黒の瞳。そして、雪肌のように透き通るような肌が、より漆黒の髪と瞳を際立たせていた。だが、その肌に相応しくない右頬に十字の傷痕――。
 衣服の上から足元まである黒の外衣を羽織り、白の上衣、黒のパンツ、ベルトブーツを身につけ、腰には2本の剣を下げている――ラスナア。その姿を目にして、エグザは口を開く。

「ラスナア。お前に1つ忠告しておこう」

「……忠告だと?」

 ラスナアの瞼の一部が僅かながらに反応を示す。