君がいるから



(あの時もこうやって――コウキと背を合わせて座ってたっけ)

 普段と比べものにならないくらいに、静かで口を閉ざして目が虚ろなコウキに私は何をしてあげられるのか――考えても、考えても、結果は真っ白なままで。
 ただ、寒そうに体を震わせていた小さな背中を見た時、その場で私は腰を下ろして、コウキと背を触れ合わせたんだ。

(どのくらい、そうしてたんだっけかなぁ)

 ふと、あったかい――ってコウキが呟いたのを耳にした時、その言葉が私は嬉しくて、嬉しくて。そうだね、あったかいね――って笑った。私達はその日――いつの間にか、陽が昇るまで共に眠りについた。
 今、考えたら、この日だったと思う。

『姉ちゃん!! お腹すいたぁ、オムライス作って!』

 騒がしくて、明るく元気な声のコウキに私は叩き起こされたんだった。私が作った少し焦げたオムライスを、美味しそうに勢いよく頬張るコウキの姿に、私も父さんも自分の食事も忘れて見入っていた。少し呆気にとられながら。

『コウキ。突然、戻ったね……』

『あぁ。コウキの部屋にいたよな、あきな。昨日、何か話したり言ったりしたのか?』

『ううん――ただ、背中を合わせて座ってたら、いつの間にか眠っちゃってて。朝、枕で叩かれて起こされた時にはもういつものコウキで』

 父さんと互いが聞こえる声量で言葉を交わし、コウキの姿を横目で見やりながら、スプーンで掬ったオムライスを口へ運んだ。

『姉ちゃん!! おかわりっ』

『そんなに慌てていきなり食べたりして。お腹、大丈夫?』

『大丈夫、大丈夫!!』

『あとでお腹痛くなっても、知らないよ?』

『姉ちゃん、姉ちゃん!』

『ん? おかわりの次はなぁに?』

『ありがとな!! 姉ちゃんっ』






「レイの背中。あったかい」

 おもむろに唇が開き、出た言葉はあの時と同じ。

「煩い」

「ふふっ、ごめん」

 レイはそれ以上、何も口にすることはなかった。ふと背に重みを感じ――気づいたら、レイは私に体を預けて、まるで安心したかのように、すやすやと寝息をたて眠りについていた。
 薄い布越しを通してだけど、人の温もりは――こんなにも、心地良いんだ。

 雨音を聞きながら、私もいつしかレイの寝息に誘われるように、夢の中へと次第に落ちていった。