君がいるから



「どんなに理由を聞いても、口を開くことがなくって」

「…………」

「あの子……どのくらいそうしてたんだっけなぁ。でも、でもね、ある日。姉ちゃん――って、明るく元の元気なコウキに戻ったの」

「……何で」

 1人で喋り続け、レイがふいに問いかけてきた事に、閉じていた瞼を上げた。

「何でだろう? 私にもよく分からない」

「そうなった理由――問いつめなかったわけ?」

「しなかった――っというより、出来なかったの方が正解かな。折角、笑顔や憎まれ口叩くいつものコウキに戻ったのに……それなのに問いただしてしまったら、また――って」

「……それからは……どうなったんだよ」

「ん? 今はものすごく元気だよ。少し困っちゃうくらいっ。ああいう事があったのは、あの一度きり」

 私は言って微笑む。そして、体勢を正して蒼い瞳をまっすぐに見つめる。

「レイ」

「…………」

「あなたが――あの時、あの暗い場所で何故1人でいて何に脅えていたのか……私には分からない」

「…………」

「レイが何を心の奥に抱えて――苦しんでいるのかも。だけど、私はそれを問いただそうなんてしない」

 レイの蒼の瞳が逸らされずに、私を見つめ続けてくる。コウキのように、きっといつかレイも――そう心の中で願う。

「誰にだって、知られたくない過去はあると思う。消し去りたいって思うことだって」

「俺のことなんて放っておけばいい。どうせ他人なんだ」

 レイの視線が外れ、また顔を俯かせてしまう。

「勝手に俺とそいつを重ねるな。迷惑のなにものでもない」

「うん……勝手に重ねて見てしまったことは謝る。ごめんなさい……でも、私は他人だからと言って、レイを放っておくことはしないし、したくない」

「本当……よく喋る」

 そう言われて、何故か私は頬を緩めてしまった。少し丸まった背中を見て、私はベットの上で膝立ちをし、レイの背後へと移動する。そして、腰を下ろして自分の背中とレイの背中を合わせた。少し体を預けるようにして。

「あんたの行動、理解し難いことが多すぎる」

 ぼそっと呟かれたレイの声を聞かぬフリをして、薄暗い部屋の天井を仰ぐ。
 静寂の中に響く雨音。天井を仰いだまま、次第に視界が霞んでいく――。