君がいるから



「う……るさ……い」

「レ、イ?」

「……出てけ――俺の前からいなくなれっ」

 突然、部屋中に響き渡ったレイの怒鳴り声に肩が思わず上り、瞼を瞑る。

「……んで」

 今度はか細い声が聞こえ、そっと瞼を開き見る。徐々に、視界にオレンジの灯りの色に染まる白髪が見え始めた。

「……な、んで……どう……し、て」

「……レイ」

 力なく首を前に垂らせた背中が――泣いている。何故だか、そう感じて。
 私はおもむろに歩み出て、レイの傍らに腰を下ろす。きしっ――と微かに音を立てて、私の重みと一緒にベットのスプリングが沈む。

「出てけ……と言ったはずだ。聞こえていなかったのか」

「ちゃんと、聞こえてた」

 そっと手を差し伸べた先には、レイの小刻みに震える背中。私の指先が触れた瞬間、彼の体が一瞬、微かな反応をみせた。でも、私は気づかぬフリをして、掌で上下にゆっくりと擦り始める。布越しにレイの体温が伝わってきて――目を閉じた。

「何してんだ、あんた」

「ん? さぁ……何してるんでしょうね」

「お前、馬鹿だろ……とっとと、その手どけろ。うざくてしょうがない」

 冷たく言い放ったレイだけど、私の手を無理やり退かそうとはしない。そして、幾度となく繰り返していくうちに、レイの震えは次第に治まっていくのを感じた。

「3日間ろくに食事してないから、背骨浮いてる……。ただでさえレイ細いし、本を読む時にしても、ちゃんと食べないと頭が働かないよ?」

「あんたには関係ない。俺が餓死しようが何しようが――」

「たしかに関係ないね。――でもさ」

 レイの背の上を擦っていた手を止め、そのままレイの背の上に乗せたまま、口を開く。

「何か、似てるんだぁ」

「…………」

「――弟のコウキに」

 ずっと、下方を見つめていた蒼の瞳が、私の瞳の視線と出合ったと同時に、レイに口端を上げて見せた。

「――ある出来事があったの」

「…………」

「それは――母さんが亡くなって少し経った頃。突然ね、ごはんもあまり口にしなくなって、私や父さんと口も利かなくなったの」

 ふと、瞼を閉じてその頃を思い返す。脳裏に浮かんだのは、窓もカーテンも閉めきって――ただ、部屋の片隅で膝を抱え蹲っていたコウキの姿。