君がいるから



「本当に、少しは大人しくしていたらどうだ」

「この俺様が、一日中じっとなんかしていられるかってーのっ」

「無茶もほどほどにしてくれ。あの男はそう易々と倒せる相手じゃないことぐらい、分かり切っていた事だろう?」

 ギルは少し苛立ちから冷静さを取り戻し、今度はギルがため息を1つ。鋭く厳しい眼差しが和らぐことはない。

「表面上の傷だけかと思ったら、あの野郎……妙な技使いやがって」

「あの異様な動きを見せてた指先に恐らく、念を込めていたんだろうね」

「ただ掠っただけでも、骨がいかれちまうくらい強大な力だ。まともにくらったら、この腕一本失っちまってたぜ。あぁー!! あいつの玩具に扱いされたことに、苛つくぜ!!」

 チッと舌打ちをし、怒りに震えた拳。

「悪趣味野郎だ」

「あぁ、気色わりぃし、胸糞わりぃっ! 次、会ったらあの野郎、ぜってーぶっ潰してやる!!」

「その意気はいいんだけど……まず目の前の事を遂行してくれた方が、こちらとしては助かるんだけど?」

 ウィリカはそう言い、手にしているものに視線を移し促す。ギルは思い出したように、口を尖らせる。

「ってか、俺様は納得し――」

「それは自分が悪い。お前が誓約書も読まずにサインするからだ」

 ギルは、何のことだ――と首を捻り、呆けた顔つきへと変わる。ウィリカはギルの表情を見るなり、深い深いため息をこぼす。

「……いや、済んだことだ。うん、そうだウィリカ……ここは抑えろ」

「お前、何1人でぶつくさ言って納得してんだ」

「…………」

「っんだよ」

「お前が僕たちの"頭"ってことが、不安に思うときが多々あるよ」

 ウィリカはギルを細めで見遣り、はぁ~っと肩を下げながら歩み始めた。

「あぁ? ウィリカ! てめー何が不安だっつーんだよっ。っつか、今すぐ止まれ!!」

 自分の傍らを、通り過ぎて行った相手の背に向かって叫ぶギル。その呼び止めを聞かぬフリをするウィリカだったが、はたっと口を開く。

「あぁーそうそう、ギル。あきなが心配していたよ」

「あ? あの女が? 誰を?」

「後で元気な姿、見せてあげたらきっと喜ぶと思うよ」

 ウィリカの言葉に、人差し指で頬を掻き、そういやー……この3日間会ってねーな、あの女――あきなの姿を思い浮かべる。

「それから、作業さぼったら、夕飯抜きだそうだ」

「あぁー!? なんじゃっそりゃ!」

 ギルは少し離れた先にいるウィリカは、自分の言葉を無視してどんどん離れて行く姿に、一度舌打ちをしたのち、渋々ギルもまた歩み始めた。