君がいるから



「お前な、人の顔見るなりため息ついてんじゃねーぞ! こらっ!!」

 しかし、ウィリカはわざとらしくもう一度息を吐く。その行為に、ギルのこめかみがピクピクと動き出したことを、ウィリカは見逃していない。

「ギル、まだこの辺は補修が終わってないんだから、そんな風にどすどす歩いたら崩れる」

「あー!? 崩れようが何になろうが、っんなこと俺様の知ったこっちゃねーんだよ!! 崩れちまえばいいんだっつーの、こんな城なんかよ!」

「ギル、そうなると……また僕たちの仕事が増えるだけ。分かってんの?」

「んなこと知るか!!」

「……やれやれ、困った長だ」

「また俺様の目の前でため息つきやがったな!!」

「だから、何?」

 ギルは歯を食いしばり、ガシッガシッと頭を豪快に掻きながら、傍らにある壁を力いっぱいに蹴り上げた。

「だから、そんな事したら崩れるって。何をそんなに苛立ってるんだ、お前は」

 しれっとしたウィリカの表情と口調に、ギルは鋭い眼光をウィリカに向けた。

「何をそんなに……だ?」

 いきなりウィリカに詰め寄り、顔を近づけるギル。

「この状況に決まってんだろうがっ。あぁ!? この俺様に雑用やら、寝る暇もなく重労働させやがって――この俺様にはこの城が崩れようが関係ねーんだ!! しかも俺様は怪我人だろうがっ。そもそも、この俺様を誰だと思っていやがんだ!!」

 間近で声を荒げ一気に捲くし立てたギルの対し、ウィリカは1つも表情を変えない。

「煩いなぁ」

「んだと、コノヤロー!!」

「それに、誰が怪我人だって?」

「はぁ!? てめーの目ん玉は節穴か! ここを見て――」

「た・だ・の・か・す・り・傷。どうってことない」

 言葉を強調しながら言うと、ギルは"うっ"と言葉を詰まらせ体を後方へ数歩ずらす。

「大人しくしていろと言ったにも関わらず、"誰"かさんが骨折一歩手前だったのに、こんなの"ただのかすり傷"だって言い張って、重い木材を1人で持った。本当は痛いくせに強がって無理したせいで完璧に折れたのは――」

 さぁそれは誰のせいかな――ウィリカは最後にそう付けたし、ギルの左手に巻きつけられた石膏を目にして、にっこりと微笑む。