君がいるから





(ええっと……そんなに見つめられると、何だか困る)

 金の瞳が私をじっと見つめた後、満面の笑みを浮かべて指でさされているのは――何故?

「顔」

「か……お?」

「そっ、顔」

 やっと口を開いたかと思えば、いきなり顔と言われ慌てる。

(顔にゴミとか変なものでも付いてる? そういえば、さっき色のついた消毒液触ってたから、何かの拍子にでも付いたのかも! シェヌお爺さんが微笑んでいたのは、そのせい!?)

 掌や甲で、ごしごしと顔全体を擦り拭う。

「――に書いてある」

「はい?」

「僕でよければいつでも――今でも聞くけど? どう?」

 頭を少し斜めに傾けるウィリカの髪がその拍子にさらりと揺れる。今度は、私が彼を見つめてしまう側に。ウィリカの表情を目をぱちくりさせ見つめていたら、さっきまで硬くなっていた口元が次第に緩んでいくのが自分でも分かって。

「……ううん、大丈夫」

「そ?」

「うん。でも――ありがとう」

「ん? 僕は何もお礼を言われるようなことしてないけどなぁ」

「そんなことないよ。ありがと、ウィリカ」

 あの時。ギルに無理に連れて行かれ、シャンロのように優しく接してくれたウィリカ。時に、ちょっとだけ意地悪な言い方もするけれど、優しさを持っている人なんだと思う。
 私がにっこり笑みを浮かべていたら、ウィリカは不思議そうに首を傾げていた。

「それじゃ、私行かなきゃいけない所があるから」

「そう、気をつけて」

「えっと……ウィリカも作業、頑張ってね」

 一度瞬きをし、それが応えなんだと悟って、お互いに微笑みを交し合いその場を離れた――。




   * * *




 立ち去るあきなの背中を、見送るウィリカの姿がここにある。

「……ありがとう、か」

 彼はその言葉を呟き、こっそりと笑み、目を細めた。っと、そこへ――。

「ってんめー!! ウィリカー!! 1人突っ立ってサボッてんじゃねーぞ! コノヤロー、しばくぞ!!」

 背後から聞こえた荒々しい口調と怒号に、先ほどの和やかな空気から一転、はぁと盛大にため息をついてから振り返る。ウィリカは頭の中で想像した人物通り――眉間の皺をいつもより濃くさせて、足音を大きく響かせるギルの姿があった。
 やれやれ――っと、もう1つため息をつき、肩を落としながら天井を仰いだ。