君がいるから



   * * *


 1つ深呼吸をしてから、ゆっくりと立ち上がる。
 あの日――アディルさんと別れてから、一度も顔を合わせていない。あれから連日、アディルさんとアッシュさんはお城の再建やその他様々なことで、寝る間もなく指揮をとっている。そう、騎士さん達に話を聞いた。会いたい、でも、少し怖い――という気持ちだけが、日に日に大きくなっていく。

「あれ? そこにいるのは……あきなじゃありませんか?」

 歩廊を歩いている途中、ふと、前方から掛けられた言葉に伏せていた目を上げる。そこには、にこにこと笑顔を浮かべ、こちらへ向かって来るのは――。

「ウィリカ」

 片方に木材、もう片方には鉄で出来た箱を持っているウィリカ。

「どうしたの? 1人、そんなところで」

「あ、いや。そういう、ウィリカは?」

「これから頼まれた仕事を手伝いに行くところ」

 そう言って、ウィリカは持っている木材に視線を落とすのと一緒に私もそちらへ目を遣った。

「お疲れ様。ウィリカ達も寝る時間あまりないんでしょ?」

「本当に、眠る暇もなくて大変。1日10時間寝ないと頭がちっとも冴えなくてさ」

「ははは……。そういえば、ギルは? 怪我、大丈夫そう?」

「あいつなら、心配ないよ。逆に口が煩くて迷惑してる」

「そっか。元気そうなら、安心した」

「あぁ、それよりも。この辺はまだ補修済んでなくて脆いから、足元気をつけてね」

「分かった。教えてくれて、ありがとう」

 私がそう言うと、ウィリカはにっこりと微笑んだ後、私の横を通り過ぎて行く。間際、咄嗟に私はその姿を追って。

「あのっウィリカ!!」

 彼を呼び止め、ウィリカは振り向き首を傾げた。

「はい、なんでしょうか?」

「あ、いや……その……」

(あれ? どうして、ウィリカを呼び止めたんだろう、私)

 自ら取った行動に、ふと何故だが疑問を抱く。

「あきな」

「……はい」

「悩みでもあるの?」

「どうして、そう思うの?」

「違うの?」

「……う~ん」

 2人して、疑問形で返し、最後には私が頭を悩ませる。ウィリカは見るからに重々しい箱を軽々と持ち上げ、長くて細い人差し指を私に向け伸ばし、微笑む。