君がいるから



   * * *


 ギィーッと音を立てて扉が開かれる。

「さぁ、どうぞ」

 お礼の言葉の代わりに軽く頭を下げて、足を踏み入れた。壁に取り付けられた台に、温かな火が灯った小さなランプに目がいく。辺りを見回し気づく、最初に連れて来られた一室だということ。

(また、戻ってきてしまった……)

「今日は少し冷える。厚手のブランケット用意したから使って」

 白髪の男は部屋に入り、ベットの上に無雑作に置かれているブランケットを手に取って見せた。

「…………」

「それじゃ、僕はもう行くよ。今宵は良い夢を」

 言葉と共に私に向かって片目を瞑り微笑む行為に、私は目を瞬かせる。

「くすっ、じゃあね」

 踵を返し靴音を鳴らして、私の横方を通り過ぎていく間際――その場に固まったままの私は、我に返り慌てて声を掛ける。

「あっあの、聞きたいことがあるんですっ」

 私の呼びかけに彼は足を止め、腰に手を当て首を傾げた。

「なに?」

「……私をこれから一体何処に連れて、いくんですか。お願いします、教えて下さい」

 言葉が進んでいくにつれ、声が微かなものになっていき、胸の前で手を合わせ固く握る。目前の人物は、今度はおもむろに腕を組みにっこり微笑む。

「う~ん、それは僕達の国についたら分かることだよ」

「国?」

「心配しなくても悪いようにはしない。君には大事な役目があるからね。まっ誰のパートナーになるかはまだ決まってはないし、相手によって君が気に入るかは分からないけれど」

「悪いようにはって――大事な役目って? パートナーってどういう意味?」

 問い掛けてもはっきりとした答えはない彼に、目でその先を訴えるも白髪の男はただ微笑んでいるだけ。

「聞きたいことはそれだけかな? やる事あるから、僕はこれで」

「まっ――」

 言葉を言い切る間もなく、背を向けたまま白髪の男は数回手を振って部屋の外へ出たかと思えば、顔だけを振り向かせ口を開く。

「僕はウィリカ。これから、どうぞよろしくね。あきな」

 そうして、扉がゆっくりと閉められた後――カチャッと小さく音が鳴る。扉の向こうで聞こえていた靴音は、小さくなっていき静けさが訪れた。
 1人この部屋に残された私は、呆然と扉を見つめ立ち尽くす。その背後で、カツンカツンと微かな音が耳に届き、振り返り音がする方へ歩み寄ると――丸い窓硝子に小さな粒の水滴が。

(……雨?)