君がいるから



 今度はあの時目にした――冷酷で鋭い目つきへと変わり、背筋に緊張が走り太腿に置いた拳に力が入る。

「俺がお前の首絞めた時――お前が言った、あれ」

「あれ……って、何ですか」

「とぼけてんじゃねーぞ。何故、お前が知ってる」

(私が知ってる――? 一体何のこと?)

 ギルガータの言っていることが、いまいち理解出来ずに眉間に皺を寄せて思考を巡らせ考えてみるものの、私には何も思い当たるふしが無い。それに――あの時の苦しさと恐怖が再び蘇って、自分の掌がおもむろに首元へと引き寄せられる。その瞬間、体が震え始めてしまう。

(あ、あれ? どうしたんだろう……私。震えが止まらない)

 自分で自分を抱きしめて抑えようとするも、余計に震えが大きくなってしまう。

「俺様の質問に答えろっ。無視してんじゃねー」

「……あ……っ」

「おい、どうした」

(落ち着いて……大丈夫、大丈夫だから。どうしよう……どうしよう……怖いっ――)

「おいっお前。顔色――」

「っ! いやっ!!」

 突然、肩に置かれた重みと耳元でした声に悲鳴を上げ、椅子から飛ぶように立ち上がる。その拍子に椅子が大きな音を立てて倒れたことなんて、気にも止めない。

「ハァ……ハァ……」

「…………」

 自分の荒々しい呼吸音が自身の耳に煩く響く。そんな私をただ見つめてくる深い茶の瞳。そして――静かに靴音を鳴らして、少し距離がある私達の間を徐々に縮めて来る。

「いや、来ないで……」

「…………」

「お願いだから!! 来ないでっ」

「…………」

 頭を激しく左右に振りながら後ずさる私とは正反対に、一歩一歩確実に近づいてくるギルガータに叫び懇願するけれど――何の反応も無いまま。

「お願い! 私に近づかないで!!」

「…………」

 ギルガータとの間を狭めたくなくて、震える足元で後ずさっていくも――その内逃げ場を失う。背には固い木壁が辺り、どんなに後ろへ後ろへと向かってもその先には到底行くことは出来ない。次第に視界がぼやけ始め。帰るまでは泣かないって決めた――決意したモノがあっという間に崩れてしまいそうで、瞼を固く閉じ顔を伏せた。でも、その行為はすぐさま上方へと戻されてしまう。