ガタッ
ギルガータは何も言わず、シャンロの席から1つ間を空けて椅子に腰を下ろす。そして、テーブルに肘を付き掌に顎を乗せ、茶の瞳が動き私の瞳へと向けられた。でも――ギルはすぐに視線を逸らし、今度はシャンロへと移す。
「おいっシャンロ」
「はっはい! ギル兄貴っ」
「飯、酒」
「あっはい! 只今っ」
ギルが言い放つと、シャンロは慌てて席を立ち、キッチンへと駆けて行ってしまう。
「…………」
「…………」
シャンロがいなくなった空間には、当然なことながら――この人と私のみ。スープの湯気が、ゆらゆらと美味しそうな匂いを鼻腔へと運んでくる。それを食べたい衝動に駆られるけれど、膝の上にある手は中々出ない。気まずさから、どうしようかと迷っている中。
キュルルル……
「ぅわっ!」
静寂が漂うこの部屋に私のお腹の虫が鳴いてしまう。確実に横にいる人にも聞こえた筈。気になって、そーっと横目に視線をやると――。
「っ!」
掌に顎を乗せたままの状態で視線がこっちに向けられている――。私は慌てて、一瞬だけあった視線を元に戻す。
(みっ見られてる……睨まれて、る、気もする……。私の首を絞めるくらいに怒ってたから、きっとまだ怒りは収まってはいないんだ)
この状況をどうすれば良いものか考え――シャンロを手伝いに行けばいいという答えに行き着き、この場から逃げるように席を立とうとした時。
「名前」
「……え?」
立ち上がる寸前――突然発せられた声に身を強張らせながら、声の主にそっと視線を移す。睨むような強い眼差しに、自分でも顔が引きつるのが分かった。
「今から、俺様が聞くことを3秒以内に答えろ。答えない場合は――どうなるか、覚悟しろ」
「え……ちょっ」
一方的に言い放つギルガータは、テーブルから肘を離し腕と足を同時に組む。そして、目を閉じたギルガータの開口一番は。
「名前」
「名前って……教えたと思いますけど」
「いーち、にぃー」
おもむろに目を開き、私の言葉を無視してカウントを始めるギルガータ。



