君がいるから



   * * *


「終わった……」

 テーブルを拭き終えた途端、力なく椅子に腰を降ろしテーブルに体を預けた。その横で、カタンッと音がして頭を起き上がらせると――シャンロの笑顔と出合う。

「お姉ちゃん、お疲れ様」

「シャンロもお疲れ様」

「これ、一緒に食べよう。お腹空いてるでしょ」

 一つのお皿にまとめられた、ほぼ残り物のおかず類とスープ。目前にある食べ物に、ついついお腹の力を抜いた瞬間――。

 グゥ~ッ キュルルルル

「うわっ!!」

 私達2人しかいない静まり返った食堂で、私のお腹の虫が響き渡ってしまう。その音が鳴り終えてからでは遅いのに、お腹に力を入れ両手で抑えこむ。

「あっはははっ」

「ははは……さっ冷めないうちに、食べよ食べよ!!」

 いくらシャンロと云えど、恥ずかしい。笑うシャンロに早口で言い、2人一緒に両手を胸の前に合わせ。

『いただきます』

 スプーンで掬ったスープを一口含む。すると、温かなスープが喉を通って胃に広がっていくと同時に、鼻を抜ける優しい香りと味。おいしい――ため息のように零れる。空っぽの胃に凍みこんでいくスープは、とても美味しくて美味しくて。

「シャンロ、すごく美味しい」

「本当!? これ俺が作ったやつなんだ!」

「本当にすごく美味しいっ。シャンロ、料理上手じゃない」

 照れ笑いするシャンロの表情はとてもあどけない。可愛い。大きくなっても、コウキのように憎たらしい子には、どうかなりませんようにと密かに唱えた。きっとコウキが聞いたら怒りそうだとも思いながら。

「これ、お母さんによく作ってもらってたんだ。俺があまりにも毎日作ってってお願いしてたから、作り方を教えてもらったんだ。でも……もう作ってもらえない」

「……え? どうして?」

 シャンロの表情が突然曇り、スプーンを持つ手をテーブルの上に置いて俯いてしまった。

「シャンロ?」

 バンッ!!

 突然背後でした物音に驚き、思わず声を上げそうになった。恐る恐る振り向きその方へ目を遣ると、そこには――。

「……っ」

「ギル兄貴!」

 高らかな声を上げたシャンロは、先ほどの表情とは違いにこにこと笑みを浮かべ見ている人物はこちらへと向かって来る――。
 赤髪の――ギルガータ。ずっと変わることはない鋭い視線を目にして、自身の首元にそっと手を添えた。