君がいるから



 今の今までのあの雰囲気は一体どこに行ってしまったのか。目の前で繰り広げられていく光景に開いた口が塞がらない。シャルネイのお城の騎士さんたちよりも遥かに凄まじい。
 大勢の男の人達の口の周りにはソースが付き、口の中いっぱいに物を放り込んだのち――豪快に笑ったり喋ったりするものだから、食べかすでテーブルが汚れていき、徐々に見るに堪えなくなっていってしまう。
 1つ気になることと言えば、賑わうその中にあの男の姿は見当たらないこと。

「お姉ちゃん、ごめんっ。そこどいてー」

「え?」

 背後から声がして振り向くと、シャンロが木の板に湯気が立ち上るスープ皿を乗せて立っていた。

「ごめん、道ふさいじゃってたね」

「ううん、大丈夫。ちょっとそこ通るよ」

 私が通る道を作ってあげたら、男達1人1人の前にスープ皿を置いていき、終えた後またすぐにキッチンへと走り去って行く。再度、周りを見渡してみても、私の存在は最早この人達にとって今はどうでもいいのかもしれない。

「ふぅ……」

 1つ息を吐いた声は賑やかな声に消され、キュッと唇を軽く結びシャンロを追いかける――。






「どうぞ。まだたくさんあるので、おかわりよければ言って下さい」

(白髪の――ウィリカさんだったっけ)

 唯一他の人たちとは真逆で、綺麗に食事を取る彼の前にスープを置いて声を掛けた。

「ありがと。君も一緒に座って食べたらどう?」

 自身が座っている席の隣を軽く叩き食事に誘われるも、目前の光景に顔を引きつってしまう。

「……いえ、私は」

「そ?」

 本音を言うと――ちょっと小腹は空いてる。でも、この人達と一緒に食事する気にはあまり慣れないし、シャンロもまだ食事を取らずに止むことがない、おかわりコールに忙しなく動かされている状況。

「姉ちゃん! おかわりくれや!!」

「あっ俺も俺も」

「こっちもな! 大盛り頼むっ」

(何でこの人たちの食事の世話してるんだろ私は。でも、シャンロ1人じゃ、中々手は回らないし大変だもん……)

「お~い、姉ちゃん! お・か・わ・りぃ~」

「おひょうさ~ん、しゃーけくれー」

 もさもさ髪のおじさんは、もう既に1人出来上がっている状態らしく、あまり呂律が回ってない。これで何回目だろうと、肩を落とす。

「おひょ~さ~ん」

「はーい!」

 それから、私はシャンロと共にキッチンと食堂を行ったり来たりを繰り返し、忙しなく体を動かし続けたのだった――。