君がいるから



「お姉ちゃん……お水持ってきたよ」

「……シャンロ」

 口を開いたと同時に、丸く大きな瞳から大粒の雫が零れ落ちた。受け取る際――微かに震えるグラスを持つ小さな両手を包み込む。

「……ありがとう」

「ううん」

 唇を噛み締めて、乱暴に袖で目元を擦り上げるシャンロ。

「……シャンロ?」

「お姉ちゃん……うっ、こんな……俺、怖く、て……うぅ」

「ごめんね……怖い思いさせちゃって。もう大丈夫だよ。泣かないで、シャンロ」

「うっ……うん……」

 大きく頷いたシャンロだったけど、まだ瞳は涙で濡れたままで――。シャンロの姿に自然と頬が緩んでいき、グラスを受け取ってゆっくり水分を口に含んだ。

「もう平気のようだね」

「お嬢さん、立てるかい?」

 横にいた人物がスッと立ち上がると同時に、男らしいごつごつと大きな掌が目前に差し出された。

「お手をどうぞ」

「あ……りがとうございま……す」

 差し出された手を遠慮なく借りて、ゆっくりと腰を持ち上げて床にしっかりと足を付ける。ほんの少しだけ、ガクガクッと膝が震えて足元がふらついた瞬間、シャンロが支えてくれた。自然と言葉で礼を言うより先に、頭を撫でてあげたら頬を赤く染めたシャンロ。

「さぁて、食事にしよっか」

「そうだな。俺、腹減って死にそうだぜ」

 今の出来事がまるで無かったかのように、ぞろぞろと男達が席に着き始めてしまう。所々で雑談まで始めてしまう。

「ぅおっほ、今日はうまそうな料理が並んでるじゃねーかよ」

「シャンロにしては……ちと上出来すぎやしねぇか? 明日は槍が降ってくんのかよ」

「そりゃ、勘弁だわっ」

「よっしゃ食うぞー!!」

 一斉にスプーンやフォークを手に取ったかと思えば――テーブルに並べられた料理へ向かって勢いよく手が伸ばされていく。

「ちょっちょっと、待っ……て下さい!」

 この場のほぼ全員が大きく口を開け料理を頬張る直前に、私の大声に反応し一気に視線が集められた。

「何だい? お嬢さん」

「今の、今までのこの状況で、すぐに食事なんて……それに」

「その話はあとあと。今はこいつを食べることに専念しなきゃなんだわ、俺らは」

 私の主張は簡単にあしらわれてしまい、彼らは一時停止が解かれ再生ボタンを押したかのように、勢いよく料理に飛びつき頬張り始めてしまった。