君がいるから



「ウィリカ――俺様の邪魔する気か」

「邪魔も何も、ここは食事をする場だ。この船の長なら長らしく、時と場を考えたらどうだ」

 2人の視線が強くぶつかり合う。双方とも引く気配はなく、ウィリカと呼ばれた男の人が私の首を未だ解くことがない赤髪の腕に触れる。全力で力を入れていないとはいえ、私の首にかかってくる力のせいで意識が朦朧としてきた時。左手に、正確には指の辺りに熱を感じた――刹那。脳内に直接、スライド写真のように次々と断片的に映し出されていく。そして、震える唇が薄く開き――。

「――――っ」

「っ!!」

 首元にあった感触が突然消え、その拍子に力を無くし始めていた足が折れ、その場に座り込む。圧力が消え去った喉の奥が、肺へと息を一気に吸い込もうとする行為に、体が大きく反応する。

「ゴホッ……ゴホゴホッ。ケッホ……ハァ、ハ……ァ」

「お前……今なんつった?」

「ゴホッゴホッ……ハァハァハ、ァ」

「聞いてんのか!? 答えろ!!」

 咳き込み続ける私の肩を掴み、床に叩きつけて馬乗りになり叫ぶ赤髪。けれど、意識が朦朧としててうまく息が吸うこともままならないのに、男の問い掛けにまともに答えられる筈もない。赤髪が中々口を開こうともしない私のシャツの襟元を、今度は両手で掴み上げたのを朦朧とする中、ただ見ていた時――あの印象深い綺麗な白髪が視界に入ってきて。

「ギル! おいっやめろ!!」

「……ちっ」

 眉間に皺を寄せた赤髪が舌打ちを一度した後、乱暴に襟元から男の手が離れていった。

「ハァ、ハァハァ……コホッ」

「大丈夫? 起き上がれる?」

 頭に手を添えられ、ゆっくりと起き上がらせてくれる人物が1人――。

「シャンロ。水、持ってきてくれ」

「はっはい!! 只今!!」

 シャンロが慌てて走り去っていくのが、少しぼやける視界の隅に映り込む。

「ハァ、ハァ」

「少し、落ち着いてきたみたいだね」

 よかった――にっこりと笑み、その笑顔に答えるように首を縦に頷いて見せる。

「あり……がとうござい、ます」

「うん、どういたしまして」

 そうして、グラスいっぱいに入った水が目前に差し出され、グラスを持つ小さな手は水に濡れたまま。視線を上げ行き着いた先には、大きな瞳いっぱいに涙を溜めているシャンロの姿が。