見上げた先には、鋭い眼光で私を見下ろす――赤髪がいる。
「ギ、ギル兄貴。その……お姉ちゃん――」
「シャンロ、お前は口を挟むな。どいてろ」
突然、シャンロは赤髪の手によって私たちは引き離された後、肩を思いっきり突き飛ばされ、その勢いでシャンロは床にお尻を、壁に背中を打ちつけしてしまう。
「シャンロっ大丈夫!?」
痛そうに顔を歪めるシャンロの元へ、慌てて傍へと寄ろうとした時――視界に横方から現れたモノによって遮られてしまう。目先には2つの靴先――そしてそこから徐々に辿って、見上げた先にいた人物を目にし、怖さなんて忘れたかのように睨みつけた。
「んだよ、その目は」
冷ややかで且つ強気な視線は私を見下ろす。再び怖さに怯みそうになったけれど、それを押し込めるように口を固く結んで立ち上がる。私が立ち上がってみても、私より背の高いこの男の視線が、上がることはない――。両の拳を一度固く握ってから、おもむろに私の口は開く。
「こんな小さな子供を……突き飛ばすなんて最低」
「……んだと?」
「優しさってものは、あなたに少しもないの? 突然、あんな風に自分よりも小さな体の子を強く押し倒して……怪我するかもしれないのにっ」
「あ? てめぇにそんな事言われる筋合いねぇんだよ! 偉そうに俺様にモノ言ってんなよ、このアマ」
「っ!!」
赤髪がそう言い放った瞬間――自分の首元には男の手がそっと添えられていて、背中に寒気が走った。
「や……めて……っ」
「ムカツク女だよなぁ、お前」
「っん!」
添えられただけだった手に力が加えられ、私が顔を歪め苦痛の声を上げると力が緩められた。
「てめぇなんか。この腕一本ありゃ、すぐに殺れんだよ」
「………っ」
(怖い……すごく怖い……。この人の目は――本気だ。本気で私をこの手一つで)
「どうするよ? 今すぐに謝れば、許してやってもいいぜ」
(でも――それでも)
「私も……あなたに、偉そうに言われる……筋合いないっ」
「そうか。なら仕方ねぇな?」
一気に力を込められるわけじゃなく、徐々に手に力が込められていく感覚が首元から伝わってくる――。同時に、息苦しさがじわじわ襲ってくる感覚に、今まで味わったことのない恐怖が全身を覆い尽くし始めていく。
「ギル、そこまでにしろ」
低い声音によって、手に込められる力の動きが止まる。息苦しさが襲う中、徐々に瞼を開き見た先には、白髪――。



