君がいるから



 一気に押し寄せるように入ってきた男性集団に驚き、視線をその方へ向けたままでいたら、ふと1人の男の人と目がバチリと合ってしまった。ほんの少しお互いに瞬きを数回したのち、男の人は目を思いっきり開いたかと思えば、驚きの表情を浮かべ私を指し示めし大きく口を開いた。

「なっなっなんっ何で女がこんな所に!?」

 その男の人の慌てた大声で、一斉に全員の視線が私へ向けられて咄嗟に構える。

「おっお前! たしか、ギルさんが連れてきたっていう――」

 この場にいる全員が口をぽっかりと開いたままで、1人のがたいの良い男の人が私の方へと近づいてくる。

(やばい、逃げなきゃ)

 こんなに大勢で、しかも口に出さなくても体格に差がある男の人達の間を潜り抜け、彼らの背後にある扉から逃げるなんて到底無理な話。だから、咄嗟に踵を返しキッチンの方へ逃れる方法を取り、床を蹴った。

「あ! お姉ちゃん!!」

 背後でシャンロの声がしたけれど、それに答える余裕がない。ほんの数メートル先の、キッチンとダイニングを繋ぐあの通路へ逃げ込めば――そう思ってた。

「きゃっ!!!」

「おっと。お嬢さん、ちょっと待ちな。そう慌てると怪我をするぜ」

 目前で1人の男の人が横方から突然現れ、入り口を塞ぐ。腰に手を当て立つ目前の男――振り返った背後の先には多くの男達。体格だって力だって、敵うはずなんて無いのは明確。けれど、それでも抗うように、ギュッと左手の甲に右手を重ね握り、目前の人物を顰め見る。

「んだよ! こんな所に固まってんじゃねー!! 俺様が通れねーだろ、邪魔だっ。どけ!」

 背後から聞き覚えのある声が響き渡って振り返ると、男達の群がる間から出てきた人物を目にして、唇を一文字に固く結ぶ。

「ったく、飯なら飯ってっとと言いに来やがれ! 俺様を1番に呼ぶのが当たり前のことだろうが――って、てめぇ等聞いて……んぁ?」

 燃えるような赤い髪――つり上がった目元に偉そうな口調。

「…………」

「…………」

 途端に、丸く見開かれた茶がかった瞳と私の瞳の視線が交わり――。

「っんな!?」

 赤髪の男は驚きの声を上げ、乱暴な足音を立て私の目前へと駆け寄ってきた――途端に腕を強く掴み上げられた。

「ぃった……ぃ」

「何でこんなところにいやがる!! てめぇ、今度はどうやって部屋から抜け出た!? 鍵かかって――」

「あ~ぁ、はぁらぁ減ったぜぇ~」

 怒鳴りつける赤い髪とは違う、締まりのない口調の声が割って入ってきた。

「んぁ? あっれ? お嬢さん、どしてこ~んな所にいるんだ~い?」