「そうだった……あの男に無理に連れて来られたから。何も持って来てないんだった」
「お姉ちゃん? 何1人で喋ってるの?」
「ううん、何でもない。そのはさみ取ってくれる?」
「……? はい、どうぞ」
はさみを受け取って手にしていたハンカチに躊躇なくはさみを入れる。
「お姉ちゃん!? 綺麗な布なのにそんな、もったいないよ!」
「シャンロは気にしない気にしない。ほら、手出して」
そう言っても下がった眉が戻らないシャンロの手を取って、傷口の水滴を拭ってから切ったハンカチを傷口にあて巻きつける。
「これでOK。シャンロは水に触らない作業してね」
「え、えっと」
「ん? 傷痛む? きつく結びすぎちゃったかな」
「そう……じゃなくて……えっと」
か細くなっていく声と共に俯いていくシャンロは、後頭部に掌を当ててわしゃわしゃと掻く。どうしたんだろう――っと顔を覗き込んだら、シャンロの頬が少し赤く染まっているようにも見えて。
「シャーンロー?」
「あ、あり……が、とう」
か細くそれでいて照れた様子の言葉と声。言ったっきり、さっきよりも顔を俯かせてしまう。耳が真っ赤に染まってて――。
「ふふっどういたしまして」
栗色の猫っ毛の髪を優しく撫で上げて、シャンロの小さくて可愛らしい姿に緩んだ口元はなかなか元には戻らない。
「可愛いなぁ」
「かっ可愛いって言うな!! はっ早く作らないと兄貴達に叱られる!!」
私の手を小さな手が払いのけ、柔らかそうな頬を膨らませてプイッと顔を背けた。
「よしっ一緒に頑張ろう!!」
「俺は何すればいいの?」
「そうだなぁ――私が切るお肉を焼いてもらって、そのお皿に取っておいて」
「分かった」
シャンロに私は指示を出しながら、試行錯誤しながらも料理を作り上げていく――。
「出来たぁ!」
「うわぁ、すごいや!! こんなたくさんのおかず久しぶりに見た」
お皿いっぱいにステーキのように焼き上げたお肉や野菜炒めもどきサラダ。それから果物も切って、お皿に盛り付けたのがキッチンいっぱいに並ぶ。その光景に、目を輝かせて見つめるシャンロの瞳。



