君がいるから



 横をちらりと見遣ると――俯いたままの大きな真ん丸の瞳からぽたりと落ちたそれを乱暴に袖で拭う。周りを少し見渡していき、ボールに入れられたお肉の大きなブロックと色とりどりの根菜が、木箱の中に無雑作に入れられているのを目にする。
 お玉もフライ返しも、普段私が使ってる物と変わらない道具を確認して、う~んっと上を見つめ考える。それから、流し台の場所へと移動し、蛇口をひねって水を出して手を濡らし洗う。

「この野菜、普通に炒めて食べても大丈夫?」

「え?」

「それとも一回、湯がいた方がいいのかな」

「え、えっと。ううん、茹でなくても大丈夫」

「そっか! じゃあ洗って――この野菜は何と合う?」

「この黄色い野菜っ。それとこのお肉」

 野菜を手に取って男の子へと次々に問いかけながら、流し台に置いていきメニューを考えていく。男の子は私の行動にちょっと困惑しながらも答えてくれて、いつの間にか落ち込んでいた表情も無くなって涙も止まっていた。それから私と男の子――。

「あっ――と。ねぇ、お名前は?」

 私の問いに男の子は動きを止めて瞬きを数回。

「教えてくれるかな、あなたの名前。私はあきな、よろしくね」

「俺は、シ……シャンロ。この船で1番下っ端なんだ」

(下っ端――それで1人で作らされてるわけか。でも、普通こんな小さな子供に1人でやらせる?)

「シャンロはいくつ? 見た感じ、小学校の低学年くらい?」

「てっていがくねんって、何?」

「あっごめん、ごめん。うんと、7・8歳くらい?」

「俺は8歳になったばかりなんだ」

「やった当たりだぁっ。 あっこれ洗ってもらっていい?」

 1つの野菜を手渡すと大きく頷いてくれ、木箱を流しの前へ移動して乗り水を出して洗い始める。

「っぃて!」

「大丈夫!?」

「指先がちょっとチクッとしただけ」

「あぁ、さっき包丁で切っちゃってたとこ」

 ちょっと見せて――シャンロの小さな手を取って傷を確認。深く切っていたらしく、水に触れたせいか血がプツプツと浮かんできてしまう。

「黴菌入っちゃうかもしれないから、お水は今日はもう触らない方がいいよ。ちょっと待ってて、絆創膏を――ってあれ?」

 制服のポケットに手を突っ込んでみるも、出てきたのはハンカチ。その瞬間、あちゃーっと口を開く。