君がいるから



 ガッタンッ!! ゴットンッ!! カシャン、カシャンッカララーンッカランッ……カラ……ンッ

「っ……ててっ」

 色んな物が床に落ちる音が止み、背中と床に着いてる右腕に走る痛みに声が漏れる。

「うぅー……くっ苦しい」

 胸辺りでモゾモゾとした動きと声がして、その方を見遣ると栗色の猫っ毛の髪が揺れ動いてて。木箱から足を踏み外したのか、落下する男の子の姿を目した途端、勝手に体が動いて中へと飛び込んで、床に子供が直撃する寸前の所で抱きとめた。自分はその勢い余って、収納棚に背中、床に体の右側を思いっきり打ちつけていた。痛みのあまり力強く抱きしめすぎていたのか、それに気づいて男の子を腕から慌てて解放する。

「あっごめんね! 怪我、してない……?」

 男の子は私の腕から離れ体を起こすと、今だ倒れこんだままの私を真ん丸の大きな瞳が見下ろす。

「うん! 大丈夫!!」

「そっか……よかった」

 ホッと胸を撫で下ろしたのも束の間――満面の笑みで答えてくれたものの、すぐさま不思議そうな表情へと変化し首を傾げてしまう。真ん丸の瞳に、私はどうしたのかと目で訴える。

「お姉ちゃん」

「やっぱり、何処か痛む?」

 大きな真ん丸の茶色の瞳が、真っ直ぐに私を見つめながら口を開く。

「お姉ちゃん、だぁれ?」

 男の子の言葉にはたっと我に返って、床に倒れていた体を慌てて起き上がらせた。その拍子に、痛みを忘れて突然起き上がらせたせいで、ズキンッと背中に痛みが走り顔を歪ませる。

「……いっ、つ」

「大丈夫!? お姉ちゃん!!」

「うっ、うん。大丈夫……大丈夫」

「でも、俺のせいだよね?」

「気にしないで? そっそれより、鍋から黒い煙出てるよ」

「――うわーっ! 夕飯がぁ!!!」

 彼の後ろでモクモクと上がる黒い煙を目にして指し示し伝えると、男の子は青ざめた表情で慌てて鍋の元へと駆け寄る。勢いが強い火を消してから木箱を再び重ねて乗り、中を覗き込む男の子の顔は一気に曇ってしまい今にも泣き出しそう。しゅんと肩を落とした後ろ姿を見て、察しがついた私は痛む背中を撫でながら立ち上がって鍋の中身を覗く。

(真っ黒こげ。これはもう作り直しだ)

 姿形もないものが黒く焼け焦げ鍋にこびり付き、見るからにもう食べられる物ではない。