君がいるから



「――って違う違う!! こんな時に何考えてんの、私っ」

 おでこを一発掌で叩き、頭の中で浮かび上がっていたものを払いのける。

「今は余計なことを考えない、考えない。まず、ここをどう脱出するか」

 まだ紅潮している頬を押さえて脳内を切り替え、一呼吸してからよしっと気合を入れた――。






   * * *







「こっ、ここ――どこ?」

 ハァ~っと大きくため息をつき、ある一つの扉の前で膝を抱え座り込む。一つ一つ扉を発見する度に、人がいないかと緊張しつつも外に通じる扉と、期待しながら開くも全て結果は。
 そして、何度目かになる扉を今――開け見たばかりで、結局ただの物置き部屋。

「あの時、まっすぐ行ったはずなんだけどなぁ。というか、元の部屋とさっきまでいた場所とは違う所だったの、かも」

 もう一度大きくため息。それに私は完全に――。

「迷った……」

 一度、戻ろうと思って引き返そうとした時、この船の男たちと所々で出くわしそうになって、あちこち隠れていたら分からなくなりました。それに気づいた事が一つ。

「実は方向音痴だったのかぁ。自分の事なのに、今さら気づくなんて。あぁ……元の世界にいた時はこんな事なかっ――」

 ガッシャーンッ

「うわぁーっ!! あっちぃーーっ!!」

 静けさが漂う中、突然聞こえた叫び声でその方へ顔を向けながら体を飛び立たせた。

「なっなに?」

「うわぁーっ鍋吹いてるー!! あー!!」

 落ち着きを失っている甲高い声――それも少し幼い感じ。

 ガッシャーンッ パリンッ パリンッ

 硝子が割れる音が聞こえ、気になってその方へ足を向ける。音から察するに――落としてるのは。
 ほんの少し歩み進めていくと、未だに硝子モノが割れる音が続き、それに慌てふためく声も止まらない。徐々に音が大きく間近で聞こえ始め、足音を立てないように隙間から灯りが漏れる、ある扉の前で足を止めた。