「んだよ。俺様の整った顔に見惚れてんじゃねーよ」
今度は私が男の顔を見つめていたら、笑みを浮かべて自身の顎を撫で上げて言うギルガータという男。そんなことあるわけない――と胸の内で思い、それを流すように咳払いを一つ。
「聞きたいことがあります」
「んだよ。言ってみろ」
「私をこれから何処に連れて行く気ですか?」
問いかけると、ギルガータは瞼を閉じ鼻で笑って口を開く。
「さぁな」
「さぁな――って。今一度言いますが、私を攫っても得はないと思うんです」
第一、この世界の人間じゃないからお金だって持ってないし。金銭に換えられるものだって持ってない。
「だから、シャルネイに戻し――」
「いいや。俺たちにとっちゃ、お前が必要だ。それに一度盗んだものは戻さない主義なんでな」
「私が必要って? それ、どういう意味」
コンコンッ
扉を叩く音が聞こえ、会話はそこで中断してしまった。
「ギル~いるか~? 俺だぁ~」
扉の向こう側から聞こえたのんびりと話す口調に、ギルガータは面倒くさそうに立ち上がって扉に向かい開く。
「んだよ」
「もうすぐ、着陸するぜ~」
「了解」
「それとよ、夜メシなんだけどよ~? おっ、よぅお嬢ちゃん」
赤髪の男より背が高いボサボサの酔っ払いのおじさんが、私へと視線を送りヒラヒラと手を振ってくる。その行為に私は返すことはしない。
「おっさん、垂れた目が余計に垂れてんぞ。鼻の下もな」
「おぉ~そうかぁ? ギル~お前はもうちびっと下げた方がいいんじゃねーかー」
「なっにすんだよ!! 酒の匂い纏わせて近づくんじゃねーっ」
おじさんがギルガータの目尻に指を当てて、思いっきり皮膚を下げる。嫌がる赤髪――ギルガータ、それを見て楽む酒酔いのおじさん。小さな子供のように、じゃれ合う2人の男達の姿に呆れてしまう。
「酒くせーって言ってんだよ!ったく」
「そうか? そんなに匂うかぁ?」
クンクンと腕や服を嗅ぎ、ハハハッと笑い出す。
「着陸したら、まず風呂入るかぁ」
ここまでお酒の匂いが香ってくる。相当、飲んだんだろうな。
全然悪びれない態度で笑うおじさんの態度に、ふいに肩から力が抜けてしまったと――同時に突然。
ザザッザッズシャシャッ ゴゴゴゴッ
「何……この音――きゃっ!!!」



