君がいるから



「ははっ。はぁ、あーマジで腹いってー」

「それだけ笑ってれば、そりゃ痛くもなるでしょうね」

 男がお腹を擦る様子を見て、少し視線を逸らしてボソッと呟く。男はやっと笑いをおさめ、壁から背を離し腕を組みながらこちらへ寄ってくるのに気づき、薄っぺらい掛け布団を手繰り寄せて胸元まで引き上げ身構える。真顔に戻った男を警戒していると、ふいに男の口端が緩やかに上がった。

「お前、面白れぇーなー。この間は、脅えて王様の背後に隠れていやがったくせによ。まっさっきもだけどな。どうして今はこんなにも挑戦的なんだ、お前」

 口端を更に上げて、私を指差す。

「お前の本性はそっちか」

「本性って――それよりも」

「あ? んだよ」

「お前じゃなくて、あきな。さっきちゃんと名前教えたので、そう呼んでくれませんか……」

 顔は若干俯かせて、瞳だけを上へ向かせ見る。
 内心は怖い。何処に連れて行かれるのかも、これから先――私自身どうなるのか。でも……怖がってばかりじゃ、元の世界に帰ることさえも諦めてしまうようで。それに――あの人を信じたいから。

「お前って呼ばれるのあまり好き……じゃ、ないんです。だから」

「…………」

(にっ睨んでる。それに、この人の瞳は何でこう偉そうに見えるんだろう、この人)

 居心地が悪い視線から逃げるように眉を顰めて視線を泳がせていたら、男がすとん――床に腰を下ろして胡坐(あぐら)を掻き始めた。逃げだした事やこうやって話し掛けることさえも咎められるかと思いきや、男が何もしてこないことに恐る恐るもう一度声を掛けてみることに。

「それから」

「んだよ」

「あなたの……その、名前を聞いてもいいですか?」

「…………」

 じーっと私の顔を見つめたまま、微動だにしない男。何かを窺っているように。私がこの人に名前を聞くこと自体、唐突すぎたんだろうと自分でも思う。そもそも、何故聞いちゃったんだろうか。強い視線に目を泳がせて男をちらちら窺っていたら、一つため息が漏れるのが耳に届く。

「ギルガータ=サーチェ」

「へ?」

「ギルガータ=サーチェ!! 俺様の名だ。俺様の事はギル様と呼べ」

 胡坐をかいた太股の上に肘を乗せて、掌に頬を添える男は口端を上げて笑む。

「歳いくつだ」

「あっえっと……17歳」

「っんだよ。俺様と同じかよ」

「ぅえ!? おっ同い歳!?」

(まさかの同い歳。なら、尚更この俺様な態度はどうなんだろう)