君がいるから



   * * *


「――いっ――」

(何か――)

「――お――――ろ」

(んん……もう、うるさい……コウキ)

「おいっ!! テメー起きろっつってんだ!!!」

 バッチンッ!!

「いったーい!!」

 怒鳴り声と共に、突然襲った両の頬に強い痛みと刺激に思わず声を上げ飛び上がった。じんわりと広がる熱の部分を両の掌で撫で抑え、睨み上げ。

「何すんのよっ。コウキ!!」

「あ? コウキ? ったくよ、どんだけ怒鳴っても叩いても起きやしねー」

 上から降ってきた声と目の前にいる人の姿に、はたっと動きを止めて目を見開く。弟のコウキとは違う、燃えるような赤髪。
 いつも寝坊した時は、こうやってコウキにも起こされてたから錯覚してしまった。

(っというか、今この人どんなに叩いてもって言った?)

「涎垂らして、ぐーすか寝てんじゃねーっ」

「なっ!! はい!?」

 赤髪の男の視線が真っ直ぐに口元に注がれて、慌てて触れて拭う。

「暴れて騒ぎ捲くった後は、のんびりご就寝かよ。緊張感まるでなしじゃねーか」

「……え、あ」

 そう言われて自分の下方を見遣ると、真っ白とは言えない布が目に映る。少し身を動かす度に耳障りな音が立ち、額に手を当て記憶を辿った。

「そっか……。ベットに座ってたら、いつの間にか寝ちゃってたんだ、私……」

「おい、お前」

 再び頭上から落ちてきた声に、眉を顰めながら視線を上げた。

「――お前お前って、私にはちゃんと名前あるんですが」

「…………」

「なっ何……」

 壁に体を預け、私に睨みをきかせて見つめてくる男に若干たじろいだものの、それに負けまいと唇を噛む。

「で?」

「は……い?」

「お前の名前。聞いてやってもいい」

(やってもいい――って、何でこの人こんなに偉そうなんだろうか)

「この俺様が、聞いてやってもいいと言ってるんだ」

「…………」

「言うのか言わないのか、はっきりしろっ。言わないなら、ずっとお前呼ばわりで良いってことか? あ?」

 偉そうな口ぶりで見下ろしてくる相手に向かって、眉間に皺を寄せ目を細め見る。相手も相手で、視線を動かさずに鋭い目つきを緩めない男。けれど、それはほんのちょっとの間――。深いため息、その場の雰囲気を壊すように息を漏らしたのは、私の方だった。