大勢の騎士が去った方をしばらく見つめていると、スッと側らにいるアッシュへと視線を移すジン。

「居場所が分かり次第奴らの元へ発つ。アッシュ、出国に備えておけ」

 ジンの言葉にアッシュは頭を下げ、アッシュもまた足早にこの場から立ち去ろうとした際、横目で未だ顔を伏せる男の姿をとらえたものの、視線を逸らし去って行った。

「サーチェ一族。あきなの力を知ってか知らずか」

 呟き放った後、背後にいる1人の男に目を向けた。長い金の髪の影と掌で、今だ表情を覗うことは出来ない男の姿。

「アディル」

 彼の名を呼ぶと、微かに肩が揺れ動くのを見逃さない。

「お前のそういう姿を見るのは"二度目"だな」

 ジンはそう言葉にしながらアディルの傍へと歩み寄り、肩を並べ自分もまた壁に背をつけ体を預けた。そして、今まで固く閉ざされていた薄い唇がゆっくりと開かれる。

「王――俺は……」

 口を開いたアディルだったが、すぐさま口を閉ざす。顔を覆い隠す手の指に力が込められ、自身の皮膚に爪がわずかに食い込んでいく。

「アディル。お前は何か勘違いをしていないか」

「…………」

「あきなは"生きている"」

 顔から掌をそっと離し、瞼をうっすらと開く。

「お前は何をそんなに怯えてる」

「俺は……俺はこの手で」

 アディルの頭の中で断片的な記憶が次々と溢れ出てゆく。グッと握る拳が力によって小刻みに震え始める。ジンはアディルのその姿を横目で映し、壁から預けていた背を離しそれはアディルに向けられる。

「アディル。お前は誰だ?」

 ふいに投げ掛けられた言葉に拳の振るえが止まり、顔を上げ瞳に映る人物の背を映す。

「お前はこのシャルネイの騎士副団長――違うか?」

「……王」

「お前は、このままここでそうしているつもりか。守りたいと思うものがあるのなら命を懸けて守りぬけ」

 その言葉を残したままアディルの元から離れ、ジンもまたこの場を後にした。

「守り……たいもの」

 そっと、再び瞼を閉じ――。

 "ア、デ……ィル……"

 あの時この手で守れなかったもの。

 "アディルさんっ"

 今度はこの手で――。