* * *



「くそっ!」

 目の前にあるテーブルに拳を叩きつけるジンの姿がここにある。

「盗賊の奴ら、あきなをどうするつもりだ」

 苦渋の色を浮かべるジン。だが、それとは反対に額へ手を当て表情を見せないように俯き、壁に体を預けている金の髪のアディル――。

「被害状況はどうなっている!?」

 ジンは背後に控える騎士たちへと振り返り述べる。そして、何十人といる騎士の中の1人が一歩前へ踏み出し口を開く。

「ご報告致します。先ほどの爆発で数人が腕や顔などに怪我をしており、現在シェヌ医師が治療にあたっています」

「……そうか。他の状況は」

「はいっ。宝物庫などには結界が張られているため、何も盗られてはいません。城の物にも何一つ手をつけてはいないようです」

「一つも? おかしい……宝物庫以外にもこの城には金に変えられる代物がある。何故それを盗まない」

 顎に手を添えて、一点を見つめ思考を巡らせるジン。そこへ、騎士の長であるアッシュがジンの前へと歩み寄り一礼。

「どうした、アッシュ」

「サーチェ一族の件で1つご報告があります」

 面を上げ、ジンを真っ直ぐにとらえるアッシュは言葉を続ける。

「あの盗賊は、たしかに街の住民や家屋から金や食物、様々なモノを盗んでいたのはたしかです。ですが」

「何だ」

「ここ数日の間で行方不明とされる女性が多数いると、先ほど報告を受けました。それこそが奴らの本来の目的かと」

「女……? 城の女性達の被害は。誰か行方が分からぬ者はいるのか?」

「城中では、そのような情報はありません」

「そうか。だが、そう簡単には安心出来ない。あきなの他に連れ去られた者がいないかを今一度確認を取れ。現在行方不明になっている者の身元も判明次第、俺に報告をしろ」

「御意」

 命を受けた数人が各々に駆け出し散り去って行く。

「金品に目もくれずに、この城に侵入した奴らの目的は――あきなただ1人なのか……」

 瞼と口を閉ざしたジンに、周りの者たちはその姿をジッと見つめる。そして、おもむろに瞼を開き、真っ直ぐに騎士たちを見つめる漆黒の強い眼差し。

「目的は何にせよ、あきなを奴らの手から連れ戻す!! 一部の者は城の警備並びに補修作業、その他の者はサーチェ一族の情報を集めろ」

『御意!!』

 ジンの力強い声に騎士たちは背筋を伸ばし、掌を胸に当てこの場から大きな足音を立てながらそれぞれこの場を後にした――。