「……へ?」

「正直いうと、この体勢は男として、ち~とばかりきついんだが」

 男の言葉で我に返って、今の現状を目の当たりにした瞬間――。

「きゃーーっ!!」

 出せる限りの声を思いっきり出して、力いっぱいに目の前の人物から遠ざかった。声にならない言葉をパクパクと金魚のように口を動かす。
 小汚く見えるおじさんの上に馬に跨って――体勢が、私が如何にもこの人を――。

「そんなに慌てて遠ざからなくてもいいのに~。おりゃ、傷つくなぁ」

「え……いや、へ?」

 のっそりと立ち上がる人物が私の目の前でしゃがみ片膝を付き、私の手を握って甲に唇を寄せた。その時、ジャリッと擦れる感触が皮膚を通して伝わる。今、された行為が次第に脳内に回りに回って、口が大きく開き――。

「さっ中へ入ろうぜ。お嬢さん」

「手っ手っ手っ!! 今! これ!! 何してっ!!」

「ん? 何ってキッスだろ? ははぁ~ん、そうか、もう一回して欲しいのかなぁ? 仕方ないなぁ、特別だ――」

 再び私の手の甲に寄せられるモノに、ゾワゾワっと背筋が震えて慌てて手を男の掌から抜け出し、悲鳴を上げた。

「いやーっ!! 止めて止めて!!」

「そっそんな風に、こんなに拒絶されるとおりゃでも傷つくなぁ~」

「誰でもそうなりますよ!! っというか、あなたは一体誰なんですか!?」

「んあ? ありゃ~一度――二度、お嬢さんと会ってるんだがなぁ」

(……二度?)

 ボサボサの髪、垂れた目元。口の周りに不精髭、それに風に乗ってくる酒の匂い。

「っ!! 思い出した!! あの時の酔っ払いのっ」

「おぉ~思い出してくれたなぁ~。っというわけで」

「へ? ひゃっ!!!」

 腰に腕を回されたと気づく間もなく、またもや肩にあっさりと担がれてしまい、慌ててその腕から逃れようと抵抗を示す。

「下ろしてください!! 何でまたこういう持ち上げられ方!?」

「暴れると中見えちまうぜ~? まっおりゃにとっては嬉しい限りだけどなぁ」

「なっ!!」

 バタバタ足を動かして暴れていたけれど、その一言でパタリと動きを止める。

「そうそう。大人しくしててな~」

 酔っ払いは私を担いだまま歩み始め、再び私は船の中へと戻される事になってしまった。