君がいるから



 2人の元に戻ると、ジンはレイの正面――私が座っていた場所へと足を広げて肘を太腿に付き座っていた。ジンの前に置いてある私のカップを下げて、その代わりに用意したカップを置く。

「お前たち、面識はないはずだが?」

 ふと私を見上げてジンが問いかけてきたから、座るタイミングを逃す。

「うん、そうなんだけど。たまたま昼間初めて会って。ジンの弟なんだってね」

「あぁ。レイ、ところでお前ここで何してるんだ? 部屋から出るなんて久方振りじゃないか?」

 レイに尋ねるジンは優しい表情――兄の顔つきで弟を見つめている。ジンとの距離を少し空けてソファーに座り、レイを見遣った。

「別に? 兄さんこそ何しに来たわけ? それに随分と仲がいいようだけど」

 兄さんには敬語は使わないんだねっと最後に付け加えたレイ。ジンの問いかけにも、私に対する態度と同じで淡々とした口調で、今までのとは違う不機嫌な空気を纏い始めたのは気のせいなのか。レイはこれが当たり前なのか、ジンはそれほど気にする様子はなく、私へと視線を移す。

「あきなに少し話があってな」

「私に話?」

「ああ」

 ジンは体ごと向き直って、真剣な眼差しを送られて少し身が強張った。

「ギルスが話した事だが。これからお前に危険が迫ってくるかもしれない」

「危険……って」

「シュヴァルツがお前を狙ってくる可能性があるということだ」

(シュヴァルツってあの――人? それに狙うって……何故私を?)

「既に、奴らはお前の力の存在を知っている可能性が高い」

「どうして? 私にはそんなものないよ?」

 首を振って否定した私からジンは視線を外し、深く息を吐き出す。

「お前は一度、奴に会ってる」

 覚えてる――あの氷のように冷たい声も、手も、闇色をした瞳も。

「お前から発せられた紅い光。奴はその光を浴びたことで恐らく気づいたに違いない」

 あの時、たしかに母さんの指輪から放たれた光。左手の中指にある指輪を右手で覆い隠して、視線を落とし口を動かす。

「ジンは――私に何を言いに来たの」

「なるべく単独で行動しない方が安全だ」

「それで?」

「それだけだ」

「本当にそれだけ?」

「ああ」

 その一言だけを最後に、隣に座っていた人物がもうその場にいないことを、ソファーの表面の動きを通じて察した。