君がいるから



 突然、この部屋に訪ねてくるなんて思ってもみなくて、驚きを隠せないけれど、とりあえずお客様ということで。

「何か飲みますか――って言っても、お水と冷たいミファしか用意出来ませんけど」

「ミファ」

 即座に返ってきた一言。ろくに答えてくれないだろうと思っていたら、意外にもすぐに返えしてくれて、それもまた驚き。昼間と同様、無表情で何を考えてるのかまったく掴めないけれど。でも、甘いものは口にするんだと1つ知る。

「今、お持ちします」

 さっき水を飲んだ所まで戻り、冷たいミファの入ったティーポットを手に取り、カップに注ぐ。自分のもちゃっかり淹れて、2つのカップを持つ。

「はい。どうぞ」

 テーブルに置き終わろうとしたにも関わらず、レイは私の手元から強引さはないものの、カップを取って口元へと運ぶ。相手に気づかれないようにため息をつき肩をすくめた後、私はレイの真正面のソファーに腰を下ろす。何も喋ろうとはしないレイの姿に、私も何を話していいやらと考えながらミファを一口含む。

「…………」

「…………」

 カチコチと時を刻む音だけが、耳に届く。

(すごく――気まずい)

 そう思わざるおえない程に静けさが漂う中、ちびちびとミファを飲み続ける私。視線は何処に向けていいものかと考え、手元にあるカップへと辿り着き視線を落としたまま数分――。






 何故だが、ずっと何かを感じてならない。首を少し傾げ、視線を恐る恐る上げてみることに――。

(うぇっ!?)

 視線を上げた瞬間、大きな碧の瞳と出くわしたのに驚いて、パッと咄嗟に思いっきり逸らしてしまった。あっあからさまに逃げてしまった――というか驚きすぎて、心臓がうるさい。
 カップをキュッと握り締め、胸の高鳴りを落ち着かせようと試みる。この静けさの中だと相手に聞こえてしまうかもと、思いつくままに会話をと決め、再びレイへと視線を向けた。

「あっあの、ですね」

「…………」

「私に何か用、があったんですか?」

「…………」

「あー、っとレ……イの部屋って本がたくさんあったけど、どんな内容の読んでるんですか?」

「…………」

「あっそうそう、歳はいくつですか? 私は17歳であと数ヶ月で18になるんですけど」

 この世界って向こうと同じように12ヶ月という日付があるんだろうかと、口にしてから気づく。