君がいるから



 頭上に何かを感じふと見上げたら、ひらひらゆっくりと落ちてくるものに気づき、両の掌を差し出し目前に落ちてきたものを乗せる。ふわふわと軽いそれを、そっと指で包み込む。

――羽?――

 ぼんやりと光を放っているかのような純白の羽。足元に落ちてくる何枚もの羽に再び仰ぎ見ると、そこには一面に羽が雪のように舞い落ちてくる。

――きれ……い――

 幻想的な光景に見惚れてしまって、ふいに羽に触れようと手を伸ばす。触れる瞬間、私の手をすり抜け落ちていく。

――え?――

 もう一度――そう試みてみるも、それもまたすり抜けてしまう。

――でも、さっきのは確かに――

 そう思って、手にしていた羽を見遣ると、そこには跡形も無く自身の掌だけがある。

 ポチャンッ

 背後で水の音がして振り返る。そこには、巨大な紅い宝玉が。水が入っているのか、ひび割れているわけでもないのに、何処からともなく宝玉から水が滴り落ちていく。鮮やかな紅に見入り、近づこうと一歩前へ足を踏み出そうとしたけれど、何故かもうそれ以上動くことが出来ない。

――どうして――

 その時、紅い宝玉が闇に隠れてしまうが、またすぐに丸い形を現す――数回、同じことが繰り返された。そして、今度は閉じられた後ゆっくりと紅の色が再び見え始めてくる。
 目の前の光景に、一瞬頭を過ぎった事。それは、まるで生き物――私達人間もすること。喉に生唾がごくり――と音を鳴らし通っていく。そうして――闇に隠された紅が半分まで見え始めた時。

――見るな!!――

 突然、空間中に響いたその声と共に、足元に大きな穴が開き体が浮遊感に襲われる。縋るように手を伸ばすも、暗闇の中へと私はそのまま――。











 ガバッ!!


「ハァハァハァ。な、に、夢?」

 荒い呼吸に息苦しさを感じ、小刻みに震えている自身を抱きしめる。あの浮遊感が夢じゃないような感覚がして、ベットにいるのが現実なんだと必死にシーツを力いっぱい握りしめる。

「なんだったんだろう……今の」

 痛いくらいに掴んだ腕、次第に呼吸も落ち着き始め、そうして視界が薄暗いことに気が付いた――。