君がいるから



   * * *


「もうここをまっすぐ行くと、お嬢さんの部屋に行けるよ」

「助かりました。ありがとうございました!」

 指を差しながら丁寧に説明してくれる無精髭を伸ばしたおじさんに、感謝を述べて頭を下げた。

「いいってことよ。お嬢さんの頼みなら、いつでも聞くからな」

「ふふっありがとうございます」

「それじゃ、おじさんはもう仕事に戻らないと。こんな所でお嬢さんといるのを副団長に見られたら、何て言われるか分からねぇからな」

 大きなゴツゴツとした掌が、クシャクシャ髪を乱すように頭を撫でる。

「うわわっ」

「じゃあな、お嬢さん」

 手を振りながら去っていくおじさんの背を見送りながら、にっこりと微笑む。おじさんの背中に父さんの姿が重なる。父さんよりは少し若いとのかなぁ。

 レイの部屋から出た後、案の定また迷ってしまった私。うろうろ色んなところを動き回っていたら、先程の騎士さんに声を掛けられ経緯を説明すると、親切にも案内してくれることに。その道中、気さくで話しやすいおじさんと会話を弾ませた。

「やーっと、着いたぁっ」

 部屋に着くなり、靴も抜かずベットに一直線に向かいそのままダイブ。ふわふわのベットにどんどん体が沈んでいき、その柔らかさにだんだんと瞼が下りてくる。

「……疲れた」

 大きく息を吐き出して、うつ伏せから仰向けにごろり寝返り、枕を両腕で抱きしめる。たった数時間の出来事を思い返そうにも、あまり頭が働いてはくれない。今になって、レイがジンの弟ならこの国の王子様だとぼんやりする中思う。それなのに、勝手にコウキと同じ歳のような感覚がして、何となしに対等に喋ってしまったと騎士さんと話す中でふと気づいた。今度顔を合わせたら、謝罪しないと。

「あぁ、もうだめ、だ。眠……い……」

 陽の光で温まったこの部屋と柔らかな肌触りの良いベットの中、完全に瞼が閉じられようとしている。考えなきゃいけないことあるのに――そう思うのに。瞼は完全に閉じ夢の中へと誘われた。








 ――――――








 ピチャンッ チャポン

 ――水の音?――

 ピーチチチッ

 ――囀り?――

 何処から?――と辺りを見回す。