君がいるから



「あんたの言うとおり、兄弟。ジンは俺の兄」

「やっぱり、そうなんだ! 顔はあまり似てないようにも見えるけど、鼻とか目元はやっぱり似てるのかな」

 人差し指で目と鼻を示す私の言葉に目を細めたレイさん、それが何とも色っぽい。見惚れていたら、組んでいた腕を解き、私の背後にある扉に手をつく――。

「聞くこと聞いたんなら、さっさと出てってくんない?」

「ぃっ!?」

 扉とレイさんに挟まれるような形になったかと思えば、唐突に顔を一気に近づけてきて、目を見張り驚きの甲高い声を上げた。

「何? 恥ずかしいわけ? あんたもさっき同じようなことしたくせに、今更恥ずかしがることでもないでしょ」

「こんなに近づいてないっです」

 どんどん距離を詰めてくる彼の行動に、パニックに陥ってしまいそうで。心臓が一定のリズムを乱し始めるかのように早まっていく。

(これ以上は無理!!)

 互いの息がかかるほどに接近してくる彼の胸を、ドンッと力いっぱい押し返し距離を取ったと同時に。

「おっお邪魔しました!!」

 空気をたっぷり含んだ大声でそう言い放って、この部屋から慌てて逃げるように走り去った。

 バッタンッ

「騒がしい。変な女」

 ボソッと閉じられた扉の前で呟くレイ。ポケットに手を突っ込み、踵を返し再びソファーへと腰掛けた。そして、今度は本を開こうとはせずに背もたれに体を預け、窓外を見遣やる。陽の光が眩しいのか、少し目を細める端整な顔を照らす。視線の先の外では、時折数羽の鳥達が飛び過ぎ去っていくのが見える。

 "歌――歌がね、聞こえてきたんだ"

 頭の中で響いて聞こえてきたのは、あきなの声と言葉。

「あきな……」

 レイの口からふいに出たあきなの名。だが、そう口にしたことはレイ本人は気づいていないかのようだ。
 レイはしばらくの間、一面に広がる青の空をただ眺め続け、軟弱そうな白い肌を陽は照らし続けた――。


 その一方――。

 ガサッガサッ ガサッガサッガガサッ

 森の中を怪しく動き回る無数の影が、この城に迫っていることに誰一人として気づく者はいない。