君がいるから



「あのっごめん。もう1つだけ聞いていいかな?」

「はぁ……もう何なんだよ、ったく」

「あなたの名前、教えてくれない? 私はしばらくこのお城でお世話になることになった、山梨あきな」

「聞いてない、そんなこと。だいたい何故、俺があんたに名前を教えなきゃいけないわけ?」

「それはまぁ、そうなんだろうけど。もしかしたら、また顔を合わせることもあるかもしれないし。それに、私は知りたいと思ったから」

「…………」

「教えてくれないなら、ずっとここで待ってようかなぁ?」

 ちょっと意地悪っぽく笑みを浮かべたら、長いため息をついて本をパタンと閉じた彼。額に手を数秒添えた後、私にやっと目を向けて彼は口を開く。

「レヴァイス。レヴァイス=ラスティー=シャルネイ」

「レヴァイス、ラスティー、シャルネイ」

(シャルネイ――シャ、ル。ん? 何処かで聞き覚えのある――)

 顎に手を添えて、天井を仰ぎ見ながら頭の中で記憶を巡らせる。そこにパッと思い浮かんだのは、さっきまで一緒にいた漆黒の髪の持ち主で。

「シャルネイ!?」

 突如、大声を上げて彼を指差す私を顔を顰めギロリと睨むレヴァイスさん。

「あっごめんなさい。でも、あの、シャルネイって今言ったよね!?」

「っんだよ」

「もしかして。ジンの……兄弟とかだったりする?」

 私が口にした"ジン"という名に、微かに体が反応したかのように見えた。

「レヴァイスく……さん?」

「レイ」

「はい?」

「レイでいい」

「レイ、さん」

「さん、いらない」

 呆然とその場に立ち尽くしていると、彼は立ち上がりこっちへ歩み寄ってく来る。そして、真正面に立ち腕を組んで私を見下ろす。私より頭二つ分高い位置にある碧い瞳。

(ジンよりは少し低い、かな。というか――やっぱり綺麗な顔立ちで、羨ましい)

 無表情の彼を見上げていたら、彼の口がおもむろに開かれた。

「あんたのその服。珍しい格好だな」

「これ? あーそれはその。話せば長くなるんですけど……いいかな?」

「ならいい」

「いいの!?」

 他人に対して、全然興味を持たないんだろうか? 無表情すぎて、何を思っているのか考えているのか、まったく読み取れない。それに、私の問いに答えるつもりはないのかと思い、無理に聞くのを止めようと口を開きかけた。