君がいるから



 色白な肌、時折垣間見れる整った顔立ち。鼻も高く、無雑作な肩に着くぐらい長い髪のせいで、その容姿を隠してしまっているのがもったいない。それから――碧の瞳。綺麗なくっきり二重と、大きくて丸い碧い碧い瞳。端整な顔立ちが男性というより、女性と言った方が似合ってしまう。

「なに、言いたい事あるならはっきり言ったらどう? っというか、とっとと出てってよ。そんな所で突っ立ってられたら気が散る」

「ごめんなさい。あっあの……」

 本のページを一枚捲り、こちらを見ずにそう問いかけてくる声はやっぱり――確認せずにはいられない。

「あの、一つ聞いてもいいですか?」

「…………」

「失礼ですけど、女性の方では……ない、ですよね?」

 恐る恐るそう言葉にすると、チラッとだけ私に視線を移すとすぐにまた本へと戻す。そうして、沈黙が流れたかと思いきや。

「この声が、あんたには女の声に聞こえるわけ? 相当耳がイカレてるみたいだから、シェヌっていう医者の爺さんがいるから診てもらったら」

 少し見下すような物言いに、自身の眉間に皺が寄ったのを感じる。

(やっぱり、そうですよね、男の人ですよね)

 見惚れてしまう程の美貌だけれど、冷たい態度と突っかかってくる上から目線の物言いに印象がマイナスに向く。それは、私が聞かなくてもいい事を口にしてしまったのは悪い――悪いけれど。

「用がないなら、さっさといなくなってくれる。邪魔だよ、あんた」

 こちらを見もせずに言って、文字を追っているであろう碧い瞳は世話しなく左右に動き、次々と頁を捲っていく指先。

「だいたい。人の部屋に勝手に入るなんて、常識が無さすぎるでしょ。でも見た感じそう見えないこともないか。あんた、教養身につけてなさそうだし」

「なっ!!」

「大声出すんだったら、部屋出た後に好きなだけ出して」

 両の手が拳を作り、さっきよりも眉間に皺が寄っていく。抑えよう抑えようと、自分自身に言い聞かせて必死で平常心を保つ。シェリーの時にしてしまった失態をもうしないように。

「あ、あのっ」

「何だ、まだいたんだ。邪魔って言ったでしょ」

 プチッと何処かで音が鳴った同時に、大きく足音を立てながら目の前の人物の真横に立つ。そして、両手で彼の頬をガシッと掴んで乱暴に上を向かせた。