薄暗さに慣れ始めていた目は、陽の光に眩しさを感じ細める。掌で影を作り、視線の先に立っているだろう人物へと目を向けた。
その人は再び動き始め、窓際から離れて私の元へと歩み寄ってくる。逆光で見えなかった姿が、次第にはっきりと現れてきた。
コツッと床に着いた靴音。下から上へと少しずつ視線を移動させていく。
「もう一度聞く。あんた誰」
群青色のシャツがゆったりと身につけられてるのを見ると、細い体つきなんだろうと想像する。その下のボトムスの濃青の布地も、だぼっと皺(しわ)が無数に出来てしまう程で、全体的に自身の身体よりも大きめのを好んでいるのか。
身長は私よりも恐らく20センチ程高く、声や体型からして男性。それから長袖であろう、肘辺りまで捲くられ白い肌が露わになっている腕が、私よりも細いんじゃないかって思ってしまう程で。白く細い腕に不似合いな分厚い本を、軽々片手で持ち上げている。手元に合った視線が移動して行き着いた先に――白銀に目を奪われた。
陽の光に照らされ、真っ白く見えてしまう程の綺麗な白銀の髪。顔の形がよく見えない程に長く伸びすぎて目元が見えづらい。でも、隙間から垣間見えたのは、碧。見惚れてしまうほどの碧い瞳。
「人の顔、じろじろ見ないでくれる」
ふいに開かれた唇から、感情のこもっていない声に慌てて顔を背ける。最近人の顔見るの癖になってるような――気をつけなければ、アディルさんのように微笑んでくれる人ばかりではないんだ。不快な思いをさせてしまう恐れもある。
「ごめんなさい! あまりにも綺麗な色の瞳だなって思って、つい」
はははっと空笑いをし、笑顔を作り頭をなんとなしに掻く。すると、目の前の人物はふいっと踵を返し、本に埋もれた白いソファーに定位置のように開けられた隙間に腰を下ろし、長い足を組んで手にしていた分厚い本を広げ読み始めてしまった――。



