* * *
「あきな。そんなに離れて歩かなくても」
「……また、アディルさんにからかわれるのは嫌ですから」
2人分の靴音を鳴らしながら、長い歩廊を進む。その間、アディルさんと一定の距離を保ち並びながら歩いている。また、不意打ちでもされてからかわれたら、こっちの身が持たない。
「嫌われちゃったかな」
「え?」
「いや、独り言。それにしても、今日は無理しなくてもいいんじゃない? まだ起き上がってそう時間も経ってないから」
「いっぱい美味しい物食べたので元気になりました。ダルさもようやく抜け切ってきたみたいで……。どうやら、私の体は単純に出来ているようです」
頬を人差し指で数回掻き、自分で言っていてとても恥かしい。
「そう。元気になってよかったよ。シェヌ爺さんの処置が早かったのもあると思うよ」
「はい。また、改めてお爺さんにちゃんとお礼に行こうと思います」
「あきなが行ったら、きっと喜ぶと思うよ。ところで、どうして急にこの世界の事知りたいなんて思ったの?」
私に合わせゆったりとした歩調のアディルさんが問いかけてきた。
「ただ、この世界のこと何も知らないの私だけなんだなって」
「もしかして……アッシュの言ったことを気にしてる?」
「いえ……ただ、知っておきたいと思ったんです。アディルさん達がいるこの世界がどんな所なのか」
話終えると、アディルさんが"そっか"っとだけ呟く、2人の間に沈黙が生まれた。アディルさんの言葉に否定はしたけれど。
『この"国の人間"ではないのなら』
そう言われた時、無機質で冷たい声が頭の中で、幾度となく繰り返されていた。それは、この世界の事知りたいと思った1つのきっかけ。
「あっあの、そういえば王様は今何処にいるんですか?」
「ん? 王?」
ふと、あの森で助けてくれた王様の事が頭を過ぎった。王様の背に向かって謝ったのは覚えてはいるけれど、それからの記憶がない。先程、アディルさんからその後の経緯を聞き、王様も命に関わるような症状ではないということだった。
「王なら、今自室で休んでるよ」
「そうですか。あの、後で連れて行ってもらえませんか、王様の処に。ちゃんと本人にお礼を伝えたいので」
「……分かった」
「ありがとうございます」



