君がいるから





「ちょっアディルさん!? お願いしますから、あのっ」

「くすっ、可愛い」

 首筋に息があたり、くすぐったさなのか体がむず痒くなったかと思えば、体も顔も熱を持ち始めた。
 その時、柔らかくて温かい感触が肌に当たり、ちゅっと小さな音をたてたのが間近で耳に届く。

(何……? 今……何か首に)

 目覚めてから一気に色んなことが起こりすぎて、整理出来ない脳内は思考回路が停止して固まってしまう。

「アディル、そこまでじゃ。わし等の存在を忘れるな」

「ふふっ。そうだった……残念」

 重みがふと無くなった事で我に返り、ギシッとベットの軋む音でアディルさんがベットから降りたのだと察した。
 私はガバッと勢いよく起き上がり、さっきの感触を思い出して首筋に手を当てると同時に頬は熱に覆われる。

「あきな。そんな急に起き上がると、体に良くないぞぃ」

 シェヌお爺さんに言われてる間にも、微かに視界が揺れ顔を顰めた。

「もう少し横になりなさい。毒が抜けたのはいいが、2日間も目を覚まさなかったんじゃから」

「ふっ2日間!? そんなに……」

 そう考えたら、どっとダルさと重さが。はぁ~と息を吐くと、影が落ちてきたのに気づき視線を上げた。

「あ……」

 影の正体は――私を見下ろす冷ややかな青い瞳を持つアッシュさんだった。でも彼は、一言も発さず私を見下ろしているだけだ。その沈黙がすごく怖く、青の瞳から逃げるように視線を逸らす。

「長。あきなが怖がってるから、その辺にしてあげてくれませんか」

 そこにアディルさんが割って入ってくれて、その場の空気が和らぐ。

「アディル」

「はい、何でしょう?」

 今度はアッシュさんの視線はアディルさんへと移され、青の瞳が私から遠ざかった。

「業務に戻る」

「はい」

 アディルさんが胸に拳を当て一礼すると、アッシュさんは踵を返し出口へ歩き出したかと思った矢先――。歩みを止め、顔だけをこちらに向け、再び向けられた鋭い眼光。

「この"国の人間"ではないのなら、勝手に動き回って俺達に手間を掛けさせるな。お前に構ってる暇など俺達にはない。それからもう二度と王を危険に晒すな」

 強い眼差しに、私はタオルケットを力いっぱい握り締めて息を飲んだ。そして、目を細めたアッシュさんは私の返答も聞かずに、この場から去って行った――。