君がいるから





 少し怒っているようにも取れた、アディルさんの顔をまっすぐに見れない。

「あきな。俺を見て? 目が覚めてくれて嬉しいんだ……だから、ちゃんとその顔を見せて」

 上から降ってきた安堵を含んだ声音に、そっとアディルさんを見上げた。柔らかくて優しい、いつもの微笑みを浮かべて、瞳同士が合えば互いに頬を緩ませる。

「――元はと言えば俺が悪かった」

「……え?」

「あきなを置いて行ってしまったから」

 眉尻を下げ、申し訳なそうな表情に変わるアディルさんに私は頭を左右に降った。

「そんなことないですっ。アディルさんは何も悪くないです!!」

 本当に悪くない。だって……あのピンク頭の子が、そもそも私を置いてった事もある――って今更言う話じゃない。私も注意してなきゃいけなかった事で、それを人のせいにはしちゃいけない。連れ去られるなんて想定外ではあったけれど。

「そんな顔しないで下さい。心配やご迷惑をかけてしまって、本当にすいませんでした」

 徐々にはっきりと出てくるようになった声で、今度はちゃんとアディルさんの瞳を見ながら謝り、笑顔を作った。すると、アディルさんの表情も次第に微笑みへと変わる。

「笑った顔がやっぱり可愛い」

「ぅえっ!! 急に何をっ」

「あっ。顔が赤くなった。やっぱりその方が好きだよ」

「アッアッアディルさんっ」

 こんなにも間近で、しかも突然言われた事で顔全体が熱くなって焦る私を見て、クスクスと笑うアディルさん。顔を隠したくて両腕を動かそうとしたけれど――。腕はがっしりと何かに抑えられていて、動かすことも出来ず、その正体を確かめようと視線を自身の腕へと見遣ったら、私のシャツの布地とは違う色が存在していた。
 気づけば、背中には何故か布を通して温かさが感じ、目を見開く――。それも予想するに、2つ感じる。
 恐る恐る全体を目で状況を今一度確認したと同時に、頭の中はパニック状態に陥った。この今の状況は――私の体の上に上半身を乗せ、アディルさんの両腕が抱き竦めている。固まってしまっている私に気づいたようで、にっこり微笑まれてしまう。

「退いて欲しい?」

「……出来れば」

「でもまだ、このままでいたい」

 そう言って、私の首筋に顔を埋めた――。