* * *
(もう大丈夫だよ……目を開いてみて)
「ん――んっ」
うっすら開いた視界に、キラキラと輝くシャンデリアが霞んで見える。霞む視界の中、おもむろに辺りを見回そうと重い頭を動かす。
左――には、真っ白いシーツのベットが並んでいるのが見て取れた。枕と頭の間にある髪を擦る音を聞きながら、右へ。
すると、視線の先に誰かが傍らにいることに気づいて、暫く視点を定めようと見つめていたら、こっちに顔を向けられたような気がした。
「おや。起きたかのぅ」
とても優しい、何処か懐かしさを感じるそんな声音。その人物は座っていただろう腰を上げ、傍に近づき顔を見下ろされた。
「顔色は戻ってきたの。まだ、ダルさは残ってるとは思うがどうかな?」
視点が漸く定まってきて、にっこり微笑むのはお爺さんだと気づく。
白い髭と顔の至る所に皺があって、笑った時の目元にはクシャッと皺が寄り、とても穏やかな表情のお爺さんだった。
「わしの名はシェヌ、薬医師じゃ。名前は言えるか?」
「――はい。あきなです……山梨あきな」
「そうか。あきなでいいのかのぅ?」
小さく頷いたら、お爺さんはこっほっほと笑い声を上げた。
「おーい、お嬢さんが目を覚ましたぞぃ」
お爺さんがある方向に顔を向け、口元に掌を添え声を発する。
その時――お爺さんの背に隠された奥の方から、何かが倒れた音と共に靴音が勢いよく迫ってくるのが耳に届く。
「あきな!!」
その主の姿――というよりも金色の髪が目に映り、甘い香りが随分近くに感じたと思ったら、耳元にこそばゆさが走り目を細めた。
「あきな、よかった……。本当に――」
そして、低く震える声がして、体に重みと布を通して感じる温かさを感じた。ふと顔をより動かし見ると、綺麗な金色の髪が目と鼻の先に存在している。金の髪の主を私は知ってる――。
「ア……ディルさん」
思考と視界がより鮮明になって、私の肩に顔を埋めていたアディルさんが顔を上げて、私の目と鼻の先の紅い瞳に私が映っていた。
「あきな……。よかった、本当に本当に。どれだけ心配したか」
「あ……。ご……ごめんなさい、私」
いつも向けてくれる柔らかな表情ではなく、真っ直ぐに見つめてくる紅い瞳から目を逸らして、掠れた声で謝罪の言葉を口にした。



