君がいるから





  * * *


(もう……いいかげんにしてほしい)

 何度目かの暗闇の中で、膝を抱え座り込む私がいる。何故この場所に私はいるんだろう。聞きたくてもこの空間には1人だ。

(誰か、教えて……よ)

 膝に顔を埋め、返事などくれない空間に呟いた。

 ――っ――な――。

 微かに聞こえた声に顔をおずおずと上げる。でも見上げた先には、闇が広がるだけで耳に届くものなんて何もない。

(ただの……空耳)

 自分の中で作り上げたんだと思って、再び顔を埋めようとした時――。

 ――あ――な――

(誰!?)

 ――あきな――

 今度は空耳とは思えない、はっきりと聞こえた自分の名を呼ぶ声。その主を探す為立ち上がり、四方八方に視線を動かしながら辺りを見回した時――。

(ねぇねぇ)

 突然、背後から届いた声に体が強張るも、勢いよく振り返って数歩下がりその主を見遣る。

(君は……)

 視線を少し下げると、闇の中に見えた姿。そこには俯く男の子、けどその表情は見ることは出来ない。

(君は誰? 何か知ってたら教えてほしいの)

 突如として目の前に現れた男の子に問いかけ、彼からの返事を待つ。

(運命が動き始めた)

(え?)

 小学生くらいの男の子とは思えない位の低い声。そして、咄嗟に距離を取った私との間を縮めるように、男の子はゆっくりと歩み寄って来る。
 怖い――っと思う感情が生まれたものの、何故だかその場に立ち尽くしてしまう。
 そうして、男の子が私の目前に立つと、そっと上げた小さな手は私の左手を取った。

(ねぇ、君は)

(フフフ……ハハハ……)

 言葉を妨げた不気味な笑いに、目を見開いて男の子の手の中から自身の手を引いた。否、正確には引こうとした――。

(はっ離し……てっ)

 男の子の体には似つかわしくない程の力。その力の強さにどうやっても抜け出ない。

(っ……お願い、だからっ離して!!)

 手を握り締められ、あまりの力強さと痛みに顔を歪めた瞬間――。
 突如、強く放たれた光に包まれ、少年の姿が薄れていき、眩しさのあまり私は固く目を瞑った。

 ――待っていた――

 ――この時を……待っていた――