君がいるから





「お前の"勘"については信用はしている。それを幾度と無く目にして来たからな。だが、王を危険に晒す事はさせない。王を守り、この国を王と共に守っていく事が俺達の役目だ。違うか?」

 視線を逸らすこともなかったアディルが俯く。そんなアディルの姿にアッシュは両腕を組み、小さく息を吐き捨てる。

「俺は……この女の素性が分かるまで信用もしない、警戒を解くこともしない。それだけは覚えておけ」

 静まり返った医務室内。
 そんな中、こほほっと笑う声が静寂を破り、アッシュは声の主へと目だけを動かし見遣る先に、両手を後へ回し微笑むシェヌがこちらを見ていた。

「爺さん、あんたは俺に何か言いたげだな」

「お主は昔から変わらないのぅ」

 片眉を寄せ不機嫌そうな顔つきのアッシュに再び笑うシェヌ。

「そう睨むな。怖いのぅその顔」

 アッシュの睨みにも怯まず、シェヌは穏やかな表情を崩さない。

「お主は団長としても騎士としても優秀じゃ。だが、お主には欠けているものがある」

「何が言いたい」

「まっ自分で見つけなされ。そうじゃなければ意味がない」

 こほほほっと笑いの声を上げたシェヌを、鋭い眼光で目を細めるアッシュ。シェヌはその視線を気にも止めず、机の椅子に腰を掛けて本を読み始めてしまった。

「アッシュ」

 黙って2人の会話を、俯き聞いていたアディルがアッシュの名を呼ぶ。

「何だ」

「お前の意見は承知した。だが俺は――」

 アディルの紅い瞳が決意を物語るように、真っ直ぐアッシュの青い瞳を見据えた。

「勝手にしろ。だが、王に危険が及ぶようなら容赦はしない」

「ああ、俺にとっても王は大事な存在だ。けど、もしもお前があきなに刃を向けるなら、俺は全力であきなを守る」

 そう言った最後、真剣な表情は消えて口端を上げたアディル、アッシュは視線を逸らし踵を返した。

「アッシュ。一つ言っておく」

「…………」

「あきなは"あの絵が"見えてたよ」

 目を見開き、背後を見遣る先に微笑むアディルの姿。

「お前。それを何故、今まで黙っていた」

「ん? 忘れてた」

 楽しげに言うアディルに、眉間の皺が濃くなったアッシュの蟀谷がピクピクと小刻みに動く。

「こほほ。さて、次は何が起こるのかぅ」

 呟いたシェヌの一言は、背後にいる2人には届かぬ程小さな声だった――。