君がいるから





「盗賊にその女が攫われる寸前だったらしいな」

 チラッと目だけを動かし、ベットに横たわるあきなを見遣ったアッシュ。

「はい。連れ去られる際に森に落下、その後、ヤダリの毒に侵されていたと思っていたのですが……シェヌ医師によると、幸いにもしびれなどを起こす葉の毒だったようです。ただ、時間が経ってしまったが為に、全身に回ってしまったようです。しかし、現在は薬で体調も落ち着いています」

 顔を引き締め、淡々と事の詳細を話すアディル。騎士団長と副団長という立場での対話。

「王はどうした。ヤダリの毒に侵されたと聞いたが」

「王もあきなと同様の症状でした。現在は治療が済み、自室でお休みになっています」

 紅の瞳と青の瞳の視線が交差する。アッシュの冷やかな視線の中に怒りが混じっているのに気づくも、怯むこともないアディル。

「そんな怖い顔しよって。アッシュは何をそんなに怒っておるのかのぅ?」

 2人を纏い始めたピリピリとした雰囲気に、割って入ったゆったりとしたシェヌの声。シェヌはカチャカチャ音を立てながら、あきなの治療に使ったのか――液体状の薬が入った小瓶を片付ける。

「喧嘩をするのなら外に行っておくれ。ここは体と心を休める場所だ」

 2人に背を向けながら、そう言葉にするシェヌにアディルは少し頬を緩めた。

「シェヌ爺さん。喧嘩なんてしないよ」

「そうかい? アッシュはお主に何か言いたいことがあるようだが」

 小瓶を棚に仕舞い、硝子戸をパタンと閉めアッシュを見遣った。自分を見つめるシェヌの表情に口を開いたアッシュ。

「お前はこの女の自由を王に願ったな。それがこの結果だ」

 さっきまでの張り詰めた雰囲気が更に増し、アッシュの一言にアディルの瞳が揺れ反応を示す。互いに視線を逸らすことは無く、代わりに双方の瞳が厳しさを帯びる。

「俺はまだ、その女を信用したわけじゃない」

「異世界から来たという話をか」

「奴等の仲間ではないという証拠がない以上、俺は老様と同意見だ。監視を解く事も俺は認めない」

 アッシュの冷淡な声音と心ない言葉に、アディルはグッと拳に力を入れ握り締めた。

「どうして――お前は昔から人を信用するという事が出来ない!!」

 アディルの怒声が医務室内に響き渡り、眉間の皺を寄せてる。目前の彼とは正反対に、冷やかな視線を送る青の瞳のアッシュ。

「ならば何故、簡単にお前は信用出来る」

「それは……」

 アッシュの問いに、喉の奥に詰まらせてしまうアディル。