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清潔な真っ白なシーツが敷かれたベットに横たわるあきなの側らには、心配げな表情で見つめているアディルの姿がある。
「あきな……」
タオルケットから出ているあきなの手の甲の上に、アディルは自分の掌をそっと重ね合わせた。掌から伝わる体温は、とても温かい。
「幸い命に関わることも無かったのはこの子の運が強かったんじゃ。大丈夫だのぅて。そんなに心配するこたぁない」
「ありがとう。シェヌ爺さん」
「なぁに、それがワシの仕事じゃ。こほほほ」
自身の顎に生えている白い髭を触りながら笑う老人。低い身長、顔には年代を感じさせる皺、頭には髪などなく地肌が露出しており、白衣を身に着けているシェヌと呼ばれた老人はこの城専属の薬医師。見た目は80歳後半くらいだろう。
城の皆から、シェヌ爺さんと呼ばれ、愛親しまれている人物。
物言いも柔らかく、長年戦場で傷ついた騎士達や病に倒れた者を、励まし治療をしてきた。
部屋全体には清潔感がある白のシーツで統一されたベットが7つと、アティーク調のダークブラウンの棚には様々な薬品や包帯などの道具が並べられ、太陽の光が多く差し込むようにといくつもある窓は、まるで大きなパノラマのよう。この場所で、シェヌは1日の大半を過ごす。
シェヌはアディルの傍らに立ち、皮と皺のクシャクシャな手をあきなの額にそっと置いた。
「――もう大丈夫じゃな。熱も下がりおった。時期に目も覚める」
「よ……かった」
優しく微笑みながらアディルへ声をやる。安堵の声と共に胸を撫で下ろすアディル。
「女子(おなご)の事になると、お主は必死になるのぅ。アディル」
「シェヌ爺さん、からかわないでよ。それに、俺は」
投げ掛けられた言葉に苦笑を浮かべた後、眉間に皺を寄せ何かを考えるような表情のアディル。それを見つめるシェヌは、優しい眼差しでその姿を見つめていた。
「アディル」
背後から聞き慣れた声に反応し振り返ると、扉の前でこちらを見据えるアッシュが立っていた。今しがた、この場に足を踏み入れたのだろう。
「長」
「…………」
アッシュがこちらへと歩み寄ってくるのを目にし、アディルは腰を上げて己の上司に頭を下げる。そうして、距離を程よく空けてアッシュは、アディルの前に立ち止まった。



