君がいるから



 

 ジンは慌てて駆け寄り、あきなの体を支え抱き起こす。

「おい! しっかりしろ!」

 ジンはあきなに声を掛けるも応答はなく、荒々しく呼吸を繰り返し額には脂汗が浮かんでいた。

「この呼吸。傷口はヤダリじゃなかったはず……」

 ジンはあきなの手足にある小さな傷を今一度見遣ると、1つの一文字に切れた傷口が紫に変色しているのに気づく。次第にあきなの薄く桃色づいていた頬が、白へと変わっていくのを目にし顔を歪めた。

「くそっ。開けた道を来たが油断した。途中ヤダリの葉に掠ったのか。急がないと手遅れになる」

 あきなの膝裏と腰に手を回し、ジンは自分の胸へあきなの体をなるべく揺れないよう抱き上げ、城のある方角へと森の中を駆け抜けて行った――。



   * * *



 アディルが庭園へ駆けつけてから、1時間ほど経とうとしていた。

「まだ見つからないのか!!」

「申し訳ありません! 厖大なこの森です。落下した場所はだいだいでしか分からないのと、ヤダリの葉に手こずっているようで」

 ヤダリの葉。毒性が強くほんの少しでも葉で切れば毒が入り込み、早急に手当てをしなければ死に至ってしまう程。
 この森にしか生息せず、毒があるように見えない綺麗な淡緑色で、他の葉との間に隠れるように生え、刺々とした葉の形の先は鋭く尖っており、薄い布地では軽くかすっただけでも切れてしまう。
 だが、切れた時の痛みはほとんどなく、気づくことなく毒が回り死に至ったものは数知れず。地はもちろん木の幹に巻きつくように生えていることもあり、木々の間を通るのにも苦労を要する。

「あきな」

 あきなは落下をし、万が一助かっていても、ヤダリの葉を知らないあきなは触れてしまう可能性もある。
そうして触れて気づかずに毒に侵されてしまっている事の不安も拭えない。アディルの表情に焦りの色が見え始めた。

「俺も森に入る」

「副団長!! お待ち下さい!!」

「時間がないかもしれない! どけ!!」

 アディルを行かせまいと引き止める部下の腕を振り切り、剣を手にし森の中へ踏み入ろうとした時だった――。

「王!!」

 アディルの瞳に映りこんできたのは、顔に汗を滲ませて肩を上下に弾ませ、荒々しく呼吸をしているジンの姿。そのジンの腕の中には――。

「あきな!!」