君がいるから



「お前がそう呼ぶお陰で、盗賊なんぞにまた顔が知れた」

 王様の言葉に思考と足が止まり、数歩先に進んだ王様が体を振り向かせた。

「どうした。さっさと城に戻るぞ」

「顔が知れたら……そうなったら、王様はどうなるんですか?」

 私は不安気な声を出しながら王様に問いかけ、王様は平然とした顔で淡々と答えた。

「"奴等"と手を組んで俺を消そうとしに来る。さっきの連中は違うと否定はしていたが、他の連中に情報を流す場合もある」

 王様は言葉を一旦区切ると、両腕を組み左へ重心を掛けて漆黒の瞳が私に向けられる。

「ここではない大陸から来る連中は俺の顔を知らない者も多い。俺を狙う連中は大半が盗賊で、金品や女を貰う代わりに俺を狙うわけだ。さっきの盗賊も金品を餌に情報を売らないとは限らない。まぁ今に始まったことじゃないが」

 私……私のせいで、もしかしたら――王様は。

 その先を考えると、ギュッと制服のスカートを両手で皺が出来るぐらいに握った。

「ほら、さっさと行くぞ」

 草の音を鳴らしながら城へと足を向けた、そんな王様の背を見つめて遠ざかって行こうとする姿に、慌てて声を上げた。

「ごっごめんなさい!!」

 謝罪の言葉を口にした途端、どんどん自分の顔が歪んでいくのが分かる。だけど、王様は私に背を向けたまま、足を止めることもなく進んでいく。

「ごめ……すいません……でした」

(怒ってる……当然だよね)

私のあの言葉1つで、また命を狙われてしまう可能性が出来てしまったんだ。いつ、どんな時に襲われるのか分からない状況にいたら、誰だって不安に思って怖いって感情が生まれる。

(それなのに……私は)

「本当に……すみません」

 再びこの言葉を口にした時――再び浮遊感に襲われ王様の姿が霞んだ。

「もういい。お前は何も知らなかったんだ。それを説明しなかった俺にも非はある。今はとにかく城に戻って、手当てをしないと小さな傷でも葉の毒がまわっ」

 ドサッ

 ジンは背後で、地に何かが落ちた音に振り返ると――。

「おい!!」

 そこにはうつ伏せになり倒れた、あきなの姿があった――。