君がいるから






 ガサッ ガサッ ザッザ パキッ

 足の底を地面に着く度に、草を踏む音と落ちている細い木の枝が折れる音が鳴る。その音と木々や草が生い茂る森に響き渡る色んな鳥の鳴き声で、自然独特の雰囲気が私達を纏う。私達に会話など無く、唯ひたすら前を進み続ける王様の背に付いて行くだけ。

(身長は秋山ぐらいかな。細くてスラッとしててスタイルがいい。アディルさんもそうだけど、今まで出会ったことの無い男の人)

(そういえば……いつの間にか王様が手にしていた剣がなくなってる。風が吹いて、サラサラと揺れる綺麗な黒髪。コウキの脱色して傷んだ髪とは大違いだな)

 王様の後姿を凝視し続けながら、頭の中で勝手に自身と会話。

「言いたいことあるんだったら、はっきり言ったらどうだ」

「っ!?」

 ふいに飛んできた言葉に、驚きのあまり目を見開いて口元を慌てて掌で抑えた。

「すみません! 私、声に出してましたか!?」

「いや。 だから口に出して言ったらどうだと言ったんだ」

「……その、別に何も。でも、どうして分かったんですか!? まさか心が読めたりするんですか!?」

 動揺する私、ピタッと歩みを止め振り返り小さなため息をつく王様。

「残念ながら俺にはそんな能力はない。だが、そのように終始こちらに目を向けられていたら、誰でも気づくさ」

「す……すいません」

 私が頭を下げ謝罪を口にすると、再び前方へと顔を戻し歩き始めた王様の背を追って、今度は王様の左側へと並んだ。

「あの王様……」

 王様より身長の小さい私は、視線を上げ声を掛ける。王様の瞳がチラッと私を見たかと思うと、すぐに前方へと戻された。

「俺を呼ぶ時は名で呼べ」

「それは無理だと伝えたはずです」

「何故だ」

「何故って……。それは当然のことだと思います。私みたいな一般市民は呼び捨てや対等に話すことなんて、恐れ多くて私には出来ません」

 顔を俯かせて、今度ははっきりと王様へと言葉にした。