君がいるから



 船が飛び去って行った後、私は生い茂る草の上に膝から崩れ落ちるように座り込んでしまう。その拍子に太腿に置かれた両の手が、微かに震えているのに気づく。

(あれ……全然震えが止まらない。おかしいなぁ……)

 手を合わせ止めようとするけれど、逆効果だったのか伝染するかのように、手から腕、腕から肩、肩から背中、そして全身へ伝わっていく。

(大丈夫。もう怖いことは、なくなったんだから)

 そう強く思い、手に更に力を込め両の手を重ね合わせた。

「あきな」

 私の名を呼ぶ優しい声音の後、握り締めた手の甲に見覚えがある手がそっと重なり影が落ちてきた。見上げた先には、片膝を付き覗き込むように私を見つめる漆黒の瞳を持つ王様。頬には柔らかな風が撫で行き、重ねられた手からは王様の体温が伝わってくる――。震え、冷たくなった自分の手が次第に落ち着きを取り戻していく。

「……っ」

 王様の親指が私の手の甲を撫でるように動かされると、チクッと痛みが走った。自分の手や太股をよく見ると、無数のすり傷が刻まれている。たぶん、ここまで来るのに木の枝や葉で切っていたみたいだ。制服にはあちこちにシミが出来、随分と汚れていた。

「ヤダリの葉ではない……な。他の草にも毒が微量だがある。城に戻って、すぐに手当てをした方がいい。着替えもだな。立てるか?」

 今度は掌を見せ、私に差し伸べる王様の手を借りて立ち上がる。

「ゆっくりでいい。俺について来い。もしも体に異変があるようならすぐに言え」

 立ち上がるとすぐに手が離れ、王様は背を向け森の中へと足を向け歩き始めた。まだ放心さが抜けない私は、王様の背中を追おうと一歩前へ踏み出す――。


 ――運命が――


 頭に直接響いてきた声に立ち止り振り返ったけれど、ただ洞窟の入り口がぽっかり開いているだけでその先は暗くその先を確認することは出来ない。
 気のせいだと思い首を傾げ、再び歩き出し先に行ってしまっている王様を追いかけその場を後にした――。




 カサカサと葉が揺れている音。
 だが、あきなとジンが立ち去った直後、ピタリと風が止み、辺りが静寂に包まれた。

 ――ようやく、廻り始めた――