君がいるから




 短剣を両の手で持ってはいるものの、戦闘態勢ではない青年。

「お前は、もうその手を離せ」

「え、あっごごごめんなさい!!」

 必死にしがみ付いていた腕から慌てて離れたら、王様は剣を降ろし洞窟から出て行く。私も後に続き外へ出ると、王様と青年は互いの様子を窺っているように見合った。

「お前もしかして……シャルネイ国国王かよ?」

「さぁな」

「さぁーなって。そこのお嬢さんがはっきり言ってただろーが」

「私!?」

 顎でクイッと私の方を示めされ、王様が視線だけを私に送る。

(王様ってバレたらまずかったんだろうか……2人の視線が痛い)

「なぁ、シャルネイ国の国王さんよ」

「…………」

「今日の所はここで俺様達は引かせてもらう。だが次に会ったその時は――」

 双方の眼差しは厳しく睨み合い、2人の張詰めた空間に不似合いな柔らかな風が吹き抜ける。数秒そうした後、青年は2本の短剣を腰に下げている鞘に収めた。青年の行動に、私の横で小さく息を吐く声が聞こえ見遣ると、王様の肩から少し力が抜けたような気がした。

「おい! おっさん、てめぇはいつまで寝てやがんだ!」

「ぐぉっほ!!」

 青年の背後で、仰向けになり寝転がっている男の腹に蹴りを一発くらわせ、男は痛みのあまり腹を押さえながらフラフラと上半身を起き上がらせた。

「ギ……ル、お前はちょっとは優しく起こしたらどうだ」

「は!? んなの知らねーよ! さっさと帰るぞ」

 男の首根っこを捕まえて、膝を曲げ今にも飛び立ちそうになったと思ったら、青年は急に私の方へと振り返った。

「女」

「っ!」

 青年の険しい顔つきと低い声音に、咄嗟に身構えた。

「今日は諦めてやる。だがお前は珍しい代物……俺の獲物だって事をよく覚えておけ」

 口端を上げて不敵な笑みを見せ、青年は地を蹴って空高く飛び上がった――男の首根っこを掴んだまま。
 青年の姿を目で追っていくと、青い空にプロペラがいくつも世話しなく動く木造の空飛ぶ一隻の船が現れた。船から垂らされたロープに青年は掴まり、船は上昇し白い雲の彼方へと姿を消した――。