君がいるから




「そこの女をこっちに渡してもらえれば命だけは助けてやってもいいぜ。だがな、抵抗するのなら」

 青年はそう言うや否や、腰に下げている2本の短剣のグリップに手を添え、腰を屈めこちらをじっと見据えた。

「どうやらテメーは武器なんざ持ってないようだな。さぁどうする? 女を渡すか……まぁ、逃げるなら金も置いてってもらおうか」

「ただの盗賊か。女と金にしか脳が働かない輩だな」

「んだと、この野郎!!」

 眉間の皺がより濃く刻まれ怒りを露にし、さっきより体を低い体勢になると同時に、地を蹴って一瞬にして王様の目前に移動した青年が短剣を振りかざす――。

「王様!!」










「テメー……」

「誰が持ってないと言った?」

 咄嗟にギュッと目を瞑った私は、2人の会話にそっと目を開いた。
目に映ったのは、青年の首筋にあてがう刃――あの重々しい剣を片手で持つ王様の姿。それから、剣先には丸い赤い玉が光を帯びている。

「そんなもん、何処に隠してやがった」

「さぁーな?」

 青年の額は汗ばみ、一滴の汗が顔のラインに沿って流れていく。
そして双方が睨み合う時間(とき)はどの位経ったのか分からない。
 沈黙が続く中、先に口を開いたのは――。

「このまま剣を引けば――お前は終わりだ」

 王様のグリップを握る拳に力が入った事に気づくと、咄嗟に王様の腕に力強くしがみ付いた。

「王様!! お願いですから、やめて下さいっ」

「先に牙をむいたのはこいつだ。離せ」

「絶対に嫌です! 絶対に離さない!!」

 青年と睨み合う王様の腕が剣を引かぬように、必死に抑えた。

「こいつが望んでもか」

「どんなにこの人がそれを望もうとも、人の命をあなたの手で終わらせようとしないで下さい! 私は絶対にこの手を離しません!」

 女の私の力が敵わないと思っていても、ありったけの力を腕に込めて押さえ、王様を強い眼差しで見据え続けた。

「俺様を無視して、勝手に話を進めてんじゃねーよ」

 青年の声に視線をその方へやると、ゆっくりと両の剣を下げて地を蹴り空中で1回転。私達と距離が出来、さっきまでいた場所に青年は降り立った。