君がいるから







 ドンッ!!

 中へ入ったのも束の間、顔面と体に衝撃が襲い、後へよろめく。でもそれは、岩などの硬い衝撃ではなく――むしろ。

「いたたたっ……」

「お前」

 掌で顔を覆い俯かせていたら、頭上から声が落ちてきて1番痛みを感じる鼻を押さえて見上げたら、そこには予想もしていなかった人物――。

「おっ王様!? どうして、こんな所に!」

 目前に立っていたのは……漆黒の瞳で私を見下ろす王様の姿があった。私は驚きのあまり、王様を見つめながら固まってしまう。

「お前こんな場所で何してる。1人でこんな場所まで一体どうやって迷わず来た」

「え!? あっあの、これには事情があって」

 今までの経緯を説明しようとした時だった――。

「女! 俺様から逃げようたってそうはいかねーぞ」

 背後から掛けられた声に体を強張らせながら振り返ると、目を細め眉間に皺を寄せながら睨みつけている赤い髪の青年がいた。青年の後ろで、息を切らし疲れきった様子のボサボサ頭の男が地に両膝を付き、口元を押さえている姿がある。

「おぇ……おりゃ……は、もう走れね……き……ちわる」

 汗だくで息絶え絶えになりながら男はそう口にし、草の上に倒れこんだ。

「さぁて。お嬢さん、追いかけっこはおしまいだ」

 男の方をチラッと見遣っただけで、すぐに私へと目を向け手を差し伸べる青年。

「自分から来てくれれば、今回は許してやるよ」

「……ッ」

 頭(かぶり)を振って拒否を表し、そうしている内に額から顎にかけて一筋に汗が一つ流れ落ちた。どうしよう……そう思っている間にも、一歩また一歩と青年との距離は縮まっていく。胸元で両手を硬く握り締め、眉間に皺を寄せ青年を睨むように見つめた時――。

「貴様等"はヤツ"の手下か」

 私の背後の暗い中で言い放ちながら、私の前へと出た王様。そして、王様の背に隠された私からは、青年の姿が見えなくなった。

「誰だお前。俺様の邪魔するつもりか?」

「こちらが先に聞いている。ゾディックの者か」

「俺様をそんなヤツらと一緒にすんじゃねーよ」

 前が全然見えなくて、少し王様の背後から状況を見ようと顔を傾ける。

「なら貴様等は何者だ」

「はっ! テメーなんかに名乗る意味もねー。だが」

 顔を出した瞬間、茶の瞳と合い私を指差し妖しく口端が上がった。